内容説明
世間から軽蔑され虫けらのように扱われた男は、自分を笑った世界を笑い返すため、自意識という「地下室」に潜る。世の中を怒り、憎み、攻撃し、そして後悔の念からもがき苦しむ、中年の元小官吏のモノローグ。終わりのない絶望と戦う人間の姿が、ここにある。
著者等紹介
ドストエフスキー,フョードル・ミハイロヴィチ[ドストエフスキー,フョードルミハイロヴィチ][Достоевский,Ф.М.]
1821‐1881。ロシア帝政末期の作家。60年の生涯のうち、以下のような巨大な作品群を残した。『貧しき人々』『死の家の記録』『虐げられた人々』『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』そして『地下室の手記』。ニヒリズム、無神論との葛藤を経て、キリストを理想とした全一的世界観の獲得に至る。日本を含む世界の文学に、空前絶後の影響を与えた
安岡治子[ヤスオカハルコ]
1956年生まれ。東京大学大学院准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
127
自意識の『地下室』に閉じ籠る中年男のモノローグが延々と続く。初出は1864年だが現代的なテーマ。『地下室』で醸造するのは軽蔑、嫉妬、憎しみ……などの黒い感情。元学友の集まりに望まれていないのに参加し憎しみを募らせる。説教を垂れた若い娼婦に「本を読んでいるみたい」と指摘され深く傷つきキレる。『空気を読む』のが強く求められる現代では、人間関係に疲れる事も多い。『地下室』の住人は空気が読めないわけではなく、むしろ誰よりも空気に敏感な性格に思える。それでもこうなってしまうのは、孤高と呼ぶべきか愚かでしかないのか。2016/06/11
hit4papa
120
40年間引きこもり生活をつづける元役人の独白と回想がつづられていきます。プライドが高く、自身の意にそぐわないものに対して、恨み言ともとれる独特の不快な考えをぶつける主人公。全編を通して、屈辱の中に官能的な喜びがあるという思想(妄言?)が貫かれているわけですが、繰り返し自身を貶めるという行為は、愚物の自己弁護を通り越した不快さがあります。共感はできませんが、人の心の暗い部分の表現として捉えることはできます。愛しい人を見出した後の、主人公の思弁は皮肉な結末を迎えるわけですが、さらに不快な気分が高まります。2017/01/22
takaichiro
106
闇の奥は空間の深さを感じました。本書には漆黒(まっくろ)をイメージしました。通常の生活を送れば、心の目に映らない真の黒。無といってもいいでしょうか。ただ人間は意識がある限りその状態にあっても何かを求めて激しくもがくのでしょう。読み進めるうちに無の中に宿る強烈な力を想像しました。ブラックホールの様な。私は偶に瞑想をします。15分目をつぶり呼吸に気を集中させる基本的なタイプ。目を開ける瞬間、全ての感覚器がいっせいに動き出し生きているパワーを感じたりする。本書の世界観と比べてあまりにも幼稚な事例ではありますが。2019/07/04
マエダ
105
ドストエフスキー自身も”なるべく早くこの小説の重荷を肩から下ろしてしまいたいのですが、同時になるべく良いものに仕上げたいのです。私が考えていたよりずっと書きにくい作品です。”と言っていて「奇妙な調子」を気にしていたという。辛辣で棘のある言葉を発する地下室の住人だが、冷酷というよりも寂しさの心がみてとれ、住人自身も自分の態度をわかっている。「奇妙な調子」が本書の魅力である。2016/03/31
読特
86
時々耳にする「科学的に正しいのだ」という論破の文句。反論を許さない印籠のような言葉。卑怯なやり口。科学は確からしさを示すだけで、真実がわかっているわけではないのに。…本作は二部構成。一部は主人公"俺"の独論。自然法則に従うだけの生き方を批判する。二部は”俺”の回想。若き頃の逸話。友人の送別会。娼婦との一夜。召使との関係。アンチヒーローに感情移入できずに読了を迎える。モヤモヤ感が考えることをやめさせない。答えは見いだせないが、思考が趣きを深くする。文学には、そう、従うべき法則があるわけではないものらしい。2023/05/03
-
- 電子書籍
- できるPhotoshop Elemen…