内容説明
ゾシマの言葉にしたがって、アリョーシャは父の家に出かける。父と長男ミーチャとの確執は、激しさを増していくようだ。イリューシャとの出会い、スネギリョフ大尉の家で目にしたものなど、アリョーシャの心はさまざまに揺れ動き、イワンの「大審問官」で究極の衝撃を受ける。
著者等紹介
ドストエフスキー,フョードル・ミハイロヴィチ[ドストエフスキー,フョードルミハイロヴィチ][Достоевский,Ф.М.]
1821‐1881。ロシア帝政末期の作家。60年の生涯のうちに、以下のような巨大な作品群を残した。『貧しき人々』『死の家の記録』『虐げられた人々』『地下室の手記』『罪と罰』『賭博者』『白痴』『悪霊』『永遠の夫』『未成年』そして『カラマーゾフの兄弟』
亀山郁夫[カメヤマイクオ]
1949年生まれ。東京外国語大学教授。ドストエフスキー関連の研究のほか、ソ連・スターリン体制下の政治と芸術の関係をめぐる多くの著作がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
Tsuno本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
317
この巻には2つの重要なエピソードが含まれる。1つがイワンによって語られる長編詩「大審問官」であり、もう1つはアリョーシャの編集した「長老ゾシマの一代記」である。そのいずれもが神学的な内容と深く関わるが、イワンの語る物語は、衝撃的でありつつ、強い説得力を持っている。それは、15世紀末のセヴィリアに現れた「彼」(キリスト)が、大審問官によって「異端」とされる物語である。また、ゾシマの予言「自由な智恵と、科学と、人肉食という暴虐の時代」と、希望「この偉大な事業を、私たちはキリストと共に成し遂げる」の意義は深い。2013/04/11
パトラッシュ
185
スターリンは本書を深く読み込んでいたのではないか。宗教を否定する社会主義国ソ連は神に代わる倫理規範を持たないのを元神学生として痛感していた彼は、単純で恥知らずでひざまずく相手を求めている人間を秩序に従わせるのは大審問官こそ適任だと認めたのでは。人間社会にとって耐えがたい自由と良心が抱える苦しい秘密を、進んで持ち込ませ服従させる代償に万人を幸せにすればよいと。人びとを支配し、秘密を守る自分を頂点とする教会(=共産党)の一部だけが不幸になれば、平安と幸福の王国が初めて訪れると本気で信じたのでは。(3巻に続く)2020/05/04
あきぽん
150
カラマーゾフの兄弟はそれぞれロシアを象徴しているように思える。すなわち長男ドミトリーはチャイコフスキーやラフマニノフの曲のようなロマンチックな情熱、次男イワンはロシア政府のような知的で冷徹な無神論。そして三男アリョーシャの純粋な博愛精神も、現在ウクライナを攻撃しているロシア魂にあるはず…。2022/04/14
morinokazedayori
146
★★★軽妙な会話がポンポンと続いていく部分は楽しく読めたが、翻訳者による巻末の読書ガイドにもあるように物語の展開はとても緩やか。宗教観に関する部分は咀嚼するのに時間がかかった。ただ、「常におこたりなく自分をかえりみて、自分が光となり、罪あるものを謙虚な愛で見つめよ」の箇所には、ガツンと頭を打たれた気分。誰もがこのような心持ちであれば、世の中うまく回るのにと思う。自分がそうあれるよう、心がけようと思う。2016/07/06
ケイ
138
2日目の出来事。こここでアリョーシャの語りは終わる。イワンとのやり取り~誰なら殺されるべきかと書かれていると思っていたが、何が許されるべき、赦しはどのような行為や人に与えられるべきかの話であるのかもしれない。また、現世でのパンか来世でのパンかという例えは、今のコロナ禍では現実に即して考えられることであり、それゆえに生々しい。とはいえ、安心して興味深く読める巻2021/06/09