内容説明
「海に住む少女」の大海原に浮かんでは消える町。「飼葉桶を囲む牛とロバ」では、イエス誕生に立ち合った牛の、美しい自己犠牲が語られる。不条理な世界のなかで必死に生きるものたちが生み出した、ユニークな短編の数々。時代が変わり、国が違っても、ひとの寂しさは変わらない。
著者等紹介
シュペルヴィエル,ジュール[シュペルヴィエル,ジュール][Supervielle,Jules]
1884‐1960。ウルグアイの首都、モンテヴィデオで生まれた。両親はフランス人。10歳のときにフランスに戻り、フランス語で書くことを選ぶ。2つの国に引き裂かれた人生から、独特の複眼的な視点による、幻想的な美しい作品を描いた。詩人、作家
永田千奈[ナガタチナ]
東京生まれ。翻訳家。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
123
タイトルに引かれて読みました。やはり表題作「海に住む少女」の透明感とシュールさが、幻想的で心に残るものがあります。ラストで不思議さの種明かしはされますが、それがなによりも切ない。短編のほとんどを通して、死のイメージと不条理を描く中、表題作は最上のエッセンスとして昇華できた作品だと思います。2013/10/16
新地学@児童書病発動中
119
詩人らしい奇想が冴える短編集。表題作が特に素晴らしかった。大海原に一人で住む少女の正体とは? 最後まで読むと透明な感傷に胸が浸される。この詩人兼作家はどんな人でも持っている孤独を巧みに結晶化して、物語に仕立て上げるのに長じた人だった。2018/03/24
kariya
113
海の中に浮かぶ町に少女がたった一人で住んでいる。近付く船があれば、たちまち波に沈むこの町に。不思議で寂しい表題作に、セーヌ河の底で暮らす溺死した娘、影たちが集う空の上の世界、馬小屋で生まれた彼の幼子に献身を捧げる純朴な牛。どこか残酷でどこか哀しく美しい作品の一つ一つが、読みやすい短さを忘れてもっと長い話を読んだかのように、いつまでも胸に留まり続ける。水の中から見上げる、ゆらゆらと煌く水面のように。2010/05/23
みつ
94
光文社の古典新訳文庫で、たしか最初に刊行されたうちの一冊。それまでシュペルヴィエルといえば、驚きの眼で世界を見つめる詩集1冊を読んだのみ。長らく積読状態だったこの本であったが、急な秋の訪れとともに一挙に高くなった空に、読むべき頃合いを感じて手に取った。訳者あとがき(p184)にある「何か自分が透き通っていくような不思議な感覚」とは、自分の実感そのもの。キリストの生誕を周りの動物の側から描く作にとどまらず、表題作をはじめとする幻想的な作品からも、ステンドグラスからの透過光のような敬虔さと透明さを感じ取る。2023/10/17
(C17H26O4)
88
表題作は特に切なく何とも言い難い気持ちになった。大切な人を想い偲ぶ気持ちがそんな孤独で寂しい世界を創ってしまうなんて。「助けて」そんな言葉を叫ばねばならぬ存在を生んでしまうなんて。初めての読み心地。水のような空のような光のような透明感があって、優しさに満ちた物語であることをつい当然のように期待してしまう世界観。だが違う。物語に癒しを簡単に求めるのは甘えだと突き放されるようだった。幻想的で美しくて残酷な物語たち。2022/02/01
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