内容説明
近代化、国際化、急速な人口流入…。1960年代前半、東京オリンピックに沸き立つ首都は日々、変容を遂げていった。その一方で、いまだ残る戦後の混乱、急激な膨張に耐えられずに生じる歪みも内包していた。開高健は、都内各所を隈無く巡り、素描し、混沌さなかの東京を描き上げる。各章ごとに様々な文体を駆使するなど、実験的手法も取り入れた著者渾身のルポ。
目次
前白―悪酔の日々
空も水も詩もない日本橋
これが深夜喫茶だ
深夜の密室は流れる
「求人、当方宿舎完備」
ポンコツ横丁に哀歓あり
“戦後”がよどむ上野駅
お犬さまの天国
練馬のお百姓大尽
師走の風の中の屋台〔ほか〕
著者等紹介
開高健[カイコウタケシ]
1930年、大阪市生まれ。大阪市立大学卒。’58年、「裸の王様」で芥川賞を受賞して以来、次々に話題作を発表。ベトナム戦争のさなか、しばしば戦場に赴いた経験は、『輝ける闇』(毎日出版文化賞受賞)、『夏の闇』などに凝縮され、高い評価を受けた。’79年、『玉、砕ける』で川端康成文学賞、’81年、一連のルポルタージュ文学により菊池寛賞、’87年、自伝的長編『耳の物語』で日本文学大賞など、受賞多数。’89年、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
A.T
21
1964年秋からのベトナム戦地取材の直前に行われた1年間ほどの東京ルポルタージュ。東京オリンピックに沸き立っていた世間とは離れて、発展に対して懐疑的な開高健。取材先で出会った人の話ぶりが録音書きおこしのようなリアルが満載だし、今となってはもう絶滅したような希少な風俗。わたしの大好きなフェリーニ映画常連の女優ジュリエッタ・マシーナを「神秘的な悲惨、無邪気」と評していたのに膝をたたいた。2016/04/23
hitsuji023
17
解説によると昭和38年の晩秋から翌39年の秋にかけて、「週刊朝日」に連載されたエッセーとのことである。東京オリンピック前後だが、浮かれた明るい東京ではなく時代に翻弄されている、取り残された人々に焦点を当てているのが特徴だ。前書きで色々な文体で書いたとある通り様々な文体で書かれているその文章に内容よりも目が言ってしまう面もあった。なんかわからないけど、この人の文章には迫力がある。2023/01/09
ヨノスケ
14
古き良き時代の東京の裏の姿を活写した作品。高度経済成長期の東京は活気があり華やかな一方で淀んだ一面を持つ。人々は歯を食いしばって1日を生きている印象があった。日々、変化し続ける東京の色々な意味で生々しいルポを味わえる作品であった。2023/11/16
オカピー
10
オリンピック開催に向けて経済が上向いていく東京の姿をルポした話が満載でした。建築関係も盛り上がりが大変で、労災事故も結構あったようです。怪我の表記と金額が書いてあり、当時の物価に換算してもかなりの高額。表現はわかりやすいが、ずばり具体的に書いているので、ぎょっとしました。しかも2か所出てくるし。目玉2コ、二十四万エンとか。当時は安全配慮も十分でなく、イケイケドンドンでの景気で工事が色々な所で、頻繁にあったのだと思う。最後は、オリンピックの話しで締め。2024/04/07
hitotak
9
高度経済成長まっただ中の東京各所に直接著者が出向いてルポルタージュしている。おでん屋台やタクシー運転手、し尿処理、集団就職者の独身寮など、様々な場所に行き、五輪直前の東京の混沌とした日常を描いている。劣悪な環境や厳しい労働問題などをものともしない、庶民のバイタリティと世界有数の大都市・東京のパワフルさには圧倒される。現代の私たちが持つ、ノスタルジーいっぱいの三丁目の夕日的な昭和30年代とは大違い。章ごとに文体や表現方法も変えているのも面白い。2021/07/10
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