内容説明
猫は建築家だった。何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になる―。何を造ろうか、どう造ろうか。思いをめぐらしながら、猫は街へ出る。そして、造られるものの「形」や「機能」に思いふけるうちに、ふと気づく。鍵を握るのは、「美」だと―。人気ミステリィ作家・森博嗣と新進画家・佐久間真人が共同で紡ぎ上げた静謐な物語。
著者等紹介
森博嗣[モリヒロシ]
1957年、愛知県生まれ。1996年、『すべてがFになる』(講談社)で第1回目メフィスト賞を受賞し、デビュー。以後、続々と新刊を発表、たちまち人気ミステリィ作家となる
佐久間真人[サクママコト]
1973年、愛知県生まれ。1998年より銀座の画廊「ボザール・ミュー」で毎年個展を開催(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
168
「動くもの」夜中を静かに走る路面電車。太陽とか月だとか。「動かないもの」かつてはあたたかなオレンジの光を灯した街灯。真夜中のひそやかな街並み。 打ち捨てられたワゴン車の曖昧な内側と外側。雨よけとしての機能、理由。美、とは。存在する意義。思考し、観察する生きものである猫。白い雪の静けさと足跡。 哲学と猫の親和性の高さ。 1枚1枚の絵と言葉を、ぜんぶポストカードにして壁に貼りつけて、眠る前にランダムに取り出して眺めてから眠りにつきたい。この色とか、静けさとか、読む度に印象を変えることばとか。夢を誘って。2019/08/01
コットン
86
猫目線の構造物と猫との対峙による建築案内。良質の文と画によるアート本と言える。 文は哲学的で例えば:その「孤独な継続」こそ、「猫」が待ち望んでいるものだ。 画は:具象だが郷愁を感じるような、他の星にいるような時間が止まった不思議さ。2021/05/05
masa
83
建築家の君は今夜も窓際のタワーから百万ドルの世界を見下ろす。動くヘッドライトと動かない街灯の「美」に違いはあるのだろうかと思慮しながら。照らす太陽と照らされる月ではどうだろう。“眩しい時と笑う時に、似た表情になる”と“月がきれいですね”ではどうだろう。でも尻尾を振り回したり尻尾に振り回されたり、あくび一つで難しいことは忘れる。きっと想像とは優しさで、創造とは赦しで、騒々とは癒しなのではないか。「美」に理由はない。「美」が理由なのだ。僕は猫に頼る。“Nothing.Just feeling beauty.”2019/03/23
夜長月🌙@読書会10周年
66
ミステリー作家・森博嗣さんの絵本は珍しい。建築家の猫は思索します。『美は形なのか機能なのか』と。往々にして優れた建築家の作品は芸術的に美しいフォルムをしています。それは機能を追及した結果なのか、あふれる美的センスのなす技なのか。美の探究は続きます。2024/03/31
九月猫
53
2018年猫の日読書本。【にゃんこ祭り】参加2冊目。“猫は建築家だった。何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になるのだ。” 想像力をかきたてるこの書き出し!建築家である猫は考える。「形」とは「動き」とは、そして「美」とは。見たことも触れたことも なめたこともない「美」を考える。答えは出ない。私もなぜ猫が建築家なのかわからない。だけど猫は建築家であり続け、今日も彼は考え続ける「美」の理由を。哲学的だけど、併記された英文とともに何度も味わいたくなる不思議な魅力の物語。また再読しよう。2018/02/24