内容説明
彼女は鞄を作る父の背中が好きだった。だだだ、だだだ、というミシンの音が「父の音」だった。やがて、家庭に安住できない父は家を出、亡くなった。大人になり、息子をもうけた彼女には既に母もなく、どこかで暮らす同じ「掌」をした異母兄だけがいた…。やがて、彼女は父と同じ鞄作りを始める―。家族、愛、人生の意味を問う第6回小説新潮長篇新人賞受賞作。
著者等紹介
前川麻子[マエカワアサコ]
1967年、東京・渋谷生まれ。舞台・映画女優を経て、2000年、『鞄屋の娘』で第6回小説新潮長篇新人賞を受賞し作家デビュー。現在はプロデュース・ユニット「アンファン・テリブル」を主宰し、小劇場を中心に女優・脚本家としても活動している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たぬ
28
☆3.5 ほぼ6年ぶりに読む前川さん2冊目は作家デビュー作。ここで初めて知ったけど元々は女優さんなのね。読み進めれば読み進めるほどに淋しさが募っていったのは、渋谷というどこかうら寂しい雰囲気も併せ持つ街が舞台になっていること、周囲の何人かが壊れていくことの2つがきっと大きい。麻子一家には鎌倉で健やかに暮らしてほしい。2021/05/29
チアモン
14
自分たち家族を捨てた鞄職人の父を持つ娘。これは前原さんの自伝的小説?主人公も前原麻子!濱田みたいな人と出会いたいなぁ。2016/06/07
つきみ
12
自身の名前を主人公に使いながらも、あくまでも小説として描く一風変わった手法。ラストに向かって穏やかになっていく空気感に心が落ち着いていく。人物それぞれに好感を持った。「人は、剥き出しのままで生きては、いけないのだ。」「両親の愛情、友人の信頼、仕事の責任、なんでもいい、何かで、一番大切な部分を、ちゃんと保護しておかなければならない。」2015/08/06
エドワード
3
麻子は鞄職人、前原宏司の愛人の娘。戸籍上は前原姓ではない。麻子は父が好きだった。記憶の中のミシンの音。父の帆布製の鞄は好評で「前原帆布」の名で知られていた。仕事はスタイリスト。モデルを洋服や雑貨で装う。麻子も愛人の子を生む。通称は前原帆太郎。小学校入学時、麻子は姓に悩む。男性にない<姓が変わる>悩みがあるんだ、と感じる。麻子が友人の依頼で作った帆布製の鞄が評判になる。父の残した型紙から帆太郎のランドセルを作り「前原帆布」の名を復活させる。麻子と帆太郎、多くの友人達、大きな家族。暖かい空気に包まれた作品。2012/09/14
カニパン
2
鞄屋の血 血は水よりも濃い 産みの親より育ての親2017/02/08