内容説明
明晰な頭脳にものをいわせ、巧みに法の網の目をくぐる。ありとあらゆる手口で完全犯罪を繰り返す“天才的知能犯”鶴岡七郎。最後まで警察の追及をかわしきった“神の如き”犯罪者の視点から、その悪行の数々を冷徹に描く。日本の推理文壇において、ひと際、異彩を放つ悪党小説。主人公のモデルとなった人物を語った秘話を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
262
★★★★☆ 高木彬光渾身のピカレスク。 稀代の詐欺師、鶴岡七郎の栄枯盛衰を描いた話でかなりのボリューム。 最初に傲慢な天才隅田光一の手下として世に現れた七郎が、徐々に光一を超える悪の才能に目覚め、詐欺を繰り返す。 淡々と描かれるその軌跡は重厚で読み応えがある。ただし、堂々と本名で詐欺の過程に関わっていく七郎のスタイルは一流の詐欺師としては無理があるように感じた。日本のピカレスクでは東野圭吾さんの『白夜行』がまず頭に浮かぶが、それと比べるとかなりチープに感じる。 とはいえ、終盤のスピード感は素晴らしい。2021/01/14
hit4papa
66
若き天才的詐欺師による犯罪の数々が描かれた作品。40年代の光クラブ事件を下敷きとした和製ピカレスクロマンの傑作ですね。東京大学の仲間4名が一攫千金を狙ってつくりあげた投資会社。主人公は、手形詐欺を繰り返す中で、仲間内でも頭角をあらわしていきます。発覚すれすれ、大胆不敵な犯罪行為に、いつしかエールを送りたくなります。友情、愛情、裏切りが錯綜するドラマチックな人間関係が良いですね。クライマックスは、映画版の有名なコピー「狼は生きろ。豚は死ね」を思い起こし、感慨深いものがありました。読み応えありの大作です。2019/02/08
Wan-Nyans
41
★★★★☆経済事犯を扱った犯罪小説の傑作。時代は戦後間もない復興期、明晰な頭脳を持つエリート・鶴岡八郎は”手形のパクリ”という詐欺の手法で次々と狙った相手から金を巻き上げていく。悪魔のような才能で、法の抜け穴を巧みに突いて起こす完全犯罪。自らを”戦後派”と規定し、日本を破滅に追いやった“戦前派”を的にかける。”神をも恐れぬ”天才的知能犯の運命や如何に…。古い小説なので差別表現も多いが、戦後の若者達が躍動する時代の息吹が生々しい。850p近いので読了に3ヶ月かかったけど、その間ずっと面白く読めました(^^)2020/01/24
yucchi
39
【年末ジャンボ大長編祭7】法の網の目をかいくぐり、様々な手口で完全犯罪を繰り返す鶴岡七郎。天才的知能犯と警察との対決に何故か鶴岡の方に肩入れしながら読んでしまう。人のちょっとした心のスキマを見逃さず、じわりじわりと入り込み、気がついた時には後の祭り。その手腕は見事の一言。今回の教訓『うまい話には裏がある』2016/01/04
めだか
38
経済犯罪小説のバイブルのような内容。詐欺師の手口が次々と具体的な事例で進んでいく。三島由紀夫の「青の時代」と同じ東大生の闇金融会社「光クラブ事件」をモデルに書かれている。天才詐欺師といわれる主人公が自己破滅的な方向へ追い込まれていき、最後は・・・・2017/04/29