内容説明
東堂太郎が回想する女性との濃密な交情。参戦目的、死の意義への自問自答は、女性との逢瀬の場で反芻されていた。村上少尉と大前田軍曹との異様な場面は、橋本・鉢田両二等兵による「皇国の戦争目的は殺して分捕ることであります」なる“怪答”で結着した。「金玉問答」「普通名詞論議」等、珍談にも満ちた内務班の奇怪な生活の時は流れる。やがて訪れる忌わしい“事件”の予兆。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
47
第二巻は『神聖喜劇』の中でも少し他とは趣の異なる巻になっている。大きく物語の展開が動くことはないのだが、様々な問題が提示されている。第三部「運命の章」において、東堂が入隊する前に逢瀬を繰り返していた「安芸の彼女」との剃毛や交情の話が唐突に語られる。何故ここに出てくるのかがよく分からない。しかし、この女性は、東堂と対等に文学の話ができるほどのインテリゲンチャでもある。ここで、この戦争の意味、戦争に行くことの意味、戦争で死ぬことへの問い、すべからく「犬死」ではないかという疑義等々について考えられ語られる。2025/10/18
踊る猫
30
大西巨人によって書かれる軍隊の日常や男女の情事は、こんなにも奇妙でユーモラスだ。大量に引用される文献の情報量に唸らされ、相変わらず洒脱な訛り/吃りの言葉のリズムに酔い痴れ、そして虚無主義を貫く東堂の生き様に共感するものを感じた。正確さを至上とする書き方は堅苦しいが、慣れて来ればこの報告書のような文体もさほど苦にならない。いや、これは「喜劇」だ。戦争という最大の悲劇/惨劇を描きながら、どうしてここまで面白さを滲み出すことが出来るのだろうか。文学の中に哲学や倫理学が溶かし込まれており、読めば読むほどタメになる2019/07/19
カピバラ
23
剃毛エピソードの印象が強すぎて、三巻に進む(買う)気になりませぬ…。作者の知識量に舌をまきつつ、これでこのシリーズはあきらめようかしら…一巻の方が読みやすかったなあ。2020/01/16
松本直哉
23
「ただ戦って分捕るだけではない」という戦争の目的についての村上少尉の高邁な演説の後で、再び皇国の戦争目的を問われた鉢田が「コウコクとは何でありますか」という場面、吉本新喜劇なら全員が足上げてころぶような滑稽さに吹きだす。本居宣長が使いだした皇国という生硬な無内容への諷刺。入営直前の東堂の、戦争未亡人との情事の妖艶なのに非感傷的な描写では、戦争で死ぬことの目的、その意味あるいは無意味をめぐってのほとんど実存的といえるほどの思索が、多くの詩歌の引用とともに紡がれる。文学だけが可能にする戦争への多面的な批判。2019/09/18
無識者
20
重いのだけれどもやっぱり面白い。無学の軍曹が学問を否定するような場面もあれば、軍曹の核心を突いた「殺して分捕るのが戦争の目的」に対し、士官学校出の少尉はそれを否定をし、「アジア開放」が目的であると正す。現場で実際動く人の本音は重い。いくらきれいごとを言っても実際に戦う兵士にしてみればやるかやられるかの世界である。軍隊の中に現代日本の縮図が見れてしまうのは皮肉なものである。2016/02/18
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