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内容説明
「なんとしてでも、地球を死の惑星にはしたくない。未来に向かって、地球上のすべての生物との共存をめざし、むしろこれからが、人類のほんとうの“あけぼの”なのかもしれないとも思うのです」幼少の思い出から、自らのマンガ、そして未来の子供たちへの想いまで。1989年、他界した天才マンガ家・手塚治虫、最後のメッセージ。
目次
『ガラスの地球を救え』刊行によせて
自然がぼくにマンガを描かせた
地球は死にかかっている
科学の進歩は何のためか
アトムの哀しみ
子どもの未来を奪うな
“いじめられっ子”のぼくをマンガが救った
先生がマンガに熱中させた
ぼくは戦争を忘れない
語り部になりたい〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
165
全く色褪せない内容。物質文明が進んでも人間は自然の一部であることに変わりない。宇宙の彼方にも小さな虫にもなる想像力を描き、都市生活に染まった人々の欲望や破壊を指摘。大切に守るべきものは何か。立ち止まるきっかけを与える。…子どもは真剣なメッセージを待ち、受け止める感受性もある。流行に同調する世界を仕掛ける商業主義は、好奇心を固定化し情報中毒を起こさせる。咀嚼力を育て、人の痛みに気づく感性を保持する必要がある。…急逝し未完成の本書は、漫画ではなく叫ぶ自伝である。ガラスは地球ではなく、人間の心なのかもしれない。2021/10/26
lonesome
38
三年ほど前生まれて初めて飛行機に乗って空の上から地上を見下ろした時、人生観が変わったように感じました。こんなに悩んでいる自分も空の上から見たらちっぽけな存在で、だけど自分にとってはそれがどれほど大きなものか。手塚治虫先生のメッセージはもっとスケールが大きいものだ。宇宙から見た地球の美しさ、人間のいとしさ。対して、見つめる目線の低さに手塚先生の人間や自然への愛をひしひしと感じた。―一つの謎が解かれれば、その十倍の新しい謎がそこから発生する、というのがぼくの持論です。(p.83)2014/02/13
紅香
32
冷たくて、やりきれなさが残る手塚治虫の作品に惹かれるのはなぜだろう。。『1つの謎が解かれれば、その十倍の新しい謎がそこから発生する』 時空を生命の領域を善悪を超えたところに彼の目はそこにあって、地球を常に俯瞰している。まるで神のように。普段私達では到底行けない領域まで、それこそ宇宙ステーションまで連れてってくれるというのが醍醐味なのかもしれない。温かい毛布というよりは戦闘服。真剣勝負。挑戦状。様々なメッセージと課題という問題山積みのお土産付きで。『人間の善が常に悪より一歩だけでも先んじていてほしい』2020/01/15
inami
31
◉読書 ★3.5 当時(昭和21年デビュー)はマンガに対する世間の目は厳しく、誤解を生んだり批判されたりしたようだが、なぜ終戦から43年間マンガを描き続けたのか、700余の作品をとおして伝えたかったメッセージとはどのようなことだったのか。手塚さんは常に、自然に根ざした「生命の尊厳」をテーマとしていたが、地球やこどもの未来を憂いていたのかもしれない。代表作の「鉄腕アトム」が、突っ走る科学技術によって社会に深い亀裂や歪み、差別を生み、人間や生命あるものを無残に傷つけていくかをも描いたつもりだったとは・・驚き!2021/06/20
fu
24
本日は敬老の日ということで、未来を憂う老賢者の言葉に耳を傾けてみようと思う。「火の鳥」を描いた作者が未来をどう捉えていたのだろうか、近未来社会を見通していた手塚さんが現在生きていたらどう思うだろうかと。この本が30年近く前に書かれたとは思えないほどの的確な指摘に驚く。手塚作品をいくつか読んでいるが、残虐な話を淡々と描ける感覚の不思議さ、またどういう意図をもって描いたのだろうか?という問いに対する答えも見つかり納得の一冊。アトムはロボット礼賛の話ではない。2016/09/19