出版社内容情報
屋敷に棲みつく霊と住人たちの関わりをユーモラスに描く「家じゃない、おもちゃだ!」、ある女性に愛されたいために悪魔に魂を売った男の真実が悲しい「指輪」、列車で同席した五等官がわたしに特定の駅で降りろと勧める「乗り合わせた男」、悲劇的な最期を遂げた歌い手の秘密に迫るにつれ……文豪トゥルゲーネフ作の心理ホラー「クララ・ミーリチ――死後」など7篇。リアリズム礼賛の蔭で忘却されてきた怪奇幻想の豊饒な世界。
内容説明
悲劇的な最期を遂げた歌い手の秘密に迫るにつれ…「クララ・ミーリチ―死後」、屋敷に住みつく霊と住人たちとの不思議な関わりを描く「家じゃない、おもちゃだ!」など7篇を収録。重厚長大なリアリズム文学重視の陰で忘れ去られていた豊饒なロシアンホラーの魅力を発掘!
著者等紹介
高橋知之[タカハシトモユキ]
1985年千葉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。現在、千葉大学大学院人文科学研究院助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
75
ロシア文学というと『カラマーゾフの兄弟』や『戦争と平和』のような長大重厚な神と人とは、とか人生は何ぞやといった主題を大上段から振り下ろしてくるようなイメージがあるが、その陰に隠れて神秘や軽妙さという一面も確かにある。本書はそんな一面が押し出された一冊。冒頭から全裸で登場するマッドサイエンティストに度肝を抜かれた後は、家霊ドモヴォイと男女の恋が右往左往する話、死んだ男の例に付き纏わられる官僚やツルゲーネフ描くファム・ファタル等どれもロシア的想像力の限りが楽しめる。怪談でも幻想文学でもなく、まさに奇譚でした。2024/12/06
巨峰
31
もうすこし濃厚でおどろおどろしいものを想定していたけど、それほど怖さは感じなかった。つまりはどこか〈奇妙〉な譚集。読み応えといえば中編の「クララ・ミーリチ 死後」だけど、家の精霊ドモヴォイが活躍する話「家じゃない、おもちゃだ!」などにロシアらしさを感じて面白く。解説を読んで面白さに気づく話もあったので自分の読む力も不足しているんだな。2024/12/27
くさてる
23
題名通り、19世紀ロシア文学の中から選ばれた、怪奇、幻想小説のアンソロジー。あまり馴染みがない露文学ですが、面白く読めました。どれもが不思議で幻想的だけど、似た話がなくバラエティに富んでます。個人的に印象に残ったのは、途中までの雰囲気がガラッと変わって、これすごく変な話じゃない?と思って面白かった「白鷲」と、古典的な怪談ぽい雰囲気が良かった「乗り合わせた男」でした。2024/10/12
春ドーナツ
17
帯の惹句は「あな、おそロシヤ」かと思ったら、「ロシアも出る」でした。収録作5篇のうち4つが本邦初訳。末尾を飾るツルゲーネフは中篇。訳者あとがきを読んで知ったのだけれど、19世紀露西亜にトルストイという作家が3人いた。本編のトルストイは吸血鬼小説を幾冊かものして人気を博したそうだ(掲載されているのはマッドサイエンティストもの)。年末年始は「Blasphemous」で明け暮れ、スラヴ神話に興味を抱く。吸血鬼に多くの紙幅が割かれている由。読書中、神智学にも関心が向く。ディケンズの「クリスマス・キャロル」の影響が2025/01/09
ふるい
12
リアリズム小説が勃興した19世紀ロシアにおいて、ひそかに花開いた怪奇・幻想ジャンルの中短篇小説が7篇収録されている。トゥルゲーネフの中篇の他はすべて本邦初訳だそう。初めて知る作家ばかりで、新鮮で面白かった。訳者解説では"西欧文学"や"オカルティズム"など、当時のロシア幻想小説に影響を与えた要素を知ることができ、作品理解の大きな助けになった。個人的に一番印象に残ったのは、アンフィテアトロフの「乗り合わせた男」で、役人が列車内で遭遇した幽霊の目的がなかなか恐ろしかった。2024/08/15