出版社内容情報
現代社会の倫理的な問題を、哲学的に考える仕方を身につけるために。泳ぎ方を習得するように、知識でなく考え方を学ぶための入門書!
倫理に正解はない、というのは本当だろうか? ないと前提するのでなく、難しい問題にも説得力のある根拠によって正しい答えを求めるのが倫理学の議論である。本書では、嘘をつくことや自殺、喫煙や肉食といったテーマをめぐって、世論や権威にまどわされず、倫理的主張の根拠のよしあしを判断する力を身につけることを目指す。
内容説明
判断の難しい現代社会の倫理的な問題を、どう考え、どう判断し、どう行動すればよいのか。倫理学的な考え方を学びたい人に向けた道案内。
目次
第1章 倫理学の基礎
第2章 死刑は存続させるべきか、廃止すべきか
第3章 嘘をつくこと・約束を破ることの倫理
第4章 自殺と安楽死
第5章 他者危害原則と喫煙の自由
第6章 ベジタリアニズム
第7章 善いことをする義務
第8章 善いことをする動機
第9章 災害時の倫理―津波てんでんこ
第10章 法と道徳
著者等紹介
児玉聡[コダマサトシ]
1974年大阪府に生まれる。2002年京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。博士(文学、2006年)。現在、京都大学大学院文学研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
evifrei
17
精神的に重くハードな論題が続くが、逃げずに考え続けることだけが、一人の人間の『生き方の指針となる規範』の獲得を現実にしてくれるのだという事を体言したかのような書籍。過剰な思想の相対主義を批判する点も個人的には納得できる。色々な価値観を尊重するのは大切なことだが、自分は如何なる見解に立つのかを明らかにし、反論となる見解には自説を説得的に示す事は、対話に参加する全ての者に対する誠実さに繋がる楊に思われる。更に本書は思想を変えたら、それに合致するよう行動を変えるべきである事を説く。非常に重いが、読んで良かった。2020/03/23
おおた
16
世の中に怒っている人たちみんなにこの書を捧げる。なぜ怒るのか、怒るには道筋があるのだ。その道筋は倫理。しかし、「倫理学」は哲学を基礎にして個々の事例を判断する際の道しるべになる。世界に怒っている人たちはまず本書を読んで、怒りの原点を探るべきじゃないかしら。世の中の怒りの原点は、実はだいたい語り尽くされてるけど、提示されることはニュースだと足りない。個人的には歳をとって食欲も若い頃ほどではないと思った今、食肉を減らすのもありだなとこの本で考えました。2020/09/14
ネムル
8
著者の『功利主義入門』より一歩進んで、死刑問題・ベジタリアニズム・利他等々の具体的なトピックに沿った、ずばりタイトル通りの倫理学の実践について。功利主義とカントの義務論の間で、慎重に考えるコツがつかめるようになっている。一般的に倫理に反する行為にも、本書ではメスを入れている。考え方をどこまでも慎重に紐解く姿勢が好ましく頼もしい。文章もシンプル明晰で、しばらくはぱらぱらし続けようと思う。2020/07/28
おやぶたんぐ
5
直前に読んだ「つなわたりの倫理学」同様、現実の難問に倫理学の立場から臨む。同じ問題で著者の立場の違い(本書は主として功利主義、「つなわたり」は徳倫理)からもたらされるアプローチの仕方や結論の違いが面白い。もっとも本書の方がより初心者を念頭に置いているようで、読みやすさは上。他方で、考え方や論理展開には首を傾げる点が多い。とりあえず、気になった点をいくつかコメント欄で触れてみる。2024/04/18
Bevel
4
自由主義・他者危害原則・功利主義あたりのつながりで、いわゆる義務論を批判的に取り込むプラットフォームを作るという形。法律も射程にいれた現代の規範一般を扱うとなると、こうじゃないと無理なんだろうな。「津波てんでんこ」が「間接的功利主義」であるなど、切れてる感じがよい。ヘアの二層功利主義の着想の面白さが伝わってきてよかったし(規則と例外の関係など)、アディクションなど、自由を損なう要件を満たすのみ、パターナリズムが許容されるみたいな論点も考えさせられた。2022/02/21