出版社内容情報
「憎悪表現」という用語は、まだ日本では定着していないが、いわゆる「差別語」の範疇である。アメリカでは、hate speech の研究として、一つのジャンルを確立している。「差別語」とは、発話ないし文字による表現の中で、差別的意図が込められているとされる特定の語句を指す。法的次元での問題考察では、「差別的表現」とされる特定の単語や言い回しが、その文脈を含めて、人権侵害かどうかといった論点となる。本書ではアメリカにおけるヘイト・スピーチの研究成果を踏まえて探求し、言葉の政治的側面を分析の対象とする。
【目次】
1 言語と社会
◎社会の鏡としての言語
社会言語学の定義
言語記号学と意味の明証性
◎社会は言語によってしか映し出されない
言語によって映し出される社会
伝聞としての言語
呼びかけ
社会言語学における<社会>
◎社会は言語を通して構成される
言語によってつくりだされる社会的現実
チョムスキーの言語理論
内部に設定される言語
理想化のプロセス
妥当要求と遂行的矛盾
理論の実質的敗北
言語の脆弱性
2 言語と自由
◎普遍文法と表現の自由
はじめに
言語と自由
言語と自由と表現の自由
脆弱性なき内部言語
<主体>の不在
進化論との闘い
◎言語的なるものの再構成
開かれた構造
内部言語における自由と平等
検問批判理論
3 憎悪表現の法的規制
◎アメリカにおける憎悪表現論争の歴史
差別表現と憎悪表現
憎悪表現問題の誕生
クー・クラックス・クラウン
ナチ党擁護
エホヴァの証人問題
集団誹謗禁止立法
スコーキー事件
キャンパス表現規則
十字架焼却事件
◎表現の自由と憎悪表現の禁止
憎悪表現規制派の議論
配分決定者としての国家
訴訟の脆弱性
言語の脆弱性
社会学的人権侵害と法学的人権損害
4 政治言語としての憎悪表現
◎言説の支配体制からの脱却
言説の支配体制
社会=言説
あらたな意味の生成
◎コミュニケーション的権力と個人
コミュニケーション的権力とコミュニケーション的自由
個人の役割
◎言語政治学の可能性
表現の<自由>とは
<表現>と<行為>の境界
日本における<差別表現>の規制
憎悪表現成立の条件
あとがきにかえて
引用言及文献
事項索引
人名索引
内容説明
たんなる差別的な“表現”が、なぜ人を傷つけるのだろうか?差別と排除の空間における言語の政治性を明らかにする。
目次
1 言語と社会(社会の鏡としての言語;社会は言語によってしか映し出されない;社会は言語を通して構成される)
2 言語と自由(普遍文法と表現の自由;言語的なものの再構成)
著者等紹介
菊池久一[キクチキュウイチ]
1958年生まれ。コロンビア大学大学院修了。現在、亜細亜大学教授。研究領域は、社会言語学、言語政治学。著書に『〈識字〉の構造―思考を抑圧する文字文化』(勁草書房、1995年)。訳書に『読み書き能力のイデオロギーをあばく―多様な価値の共存のために』J.E.スタッキー著(勁草書房、1995年)
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