出版社内容情報
インド生まれのセンは,カルカッタとケンブリッジで経済学を学び,現在はハーバード大学の経済学・哲学教授を勤める。本書はセンの代表論文六本を収録し,詳細な解説を付す。
内容説明
〈リベラル・パラドックス〉の問題提起を携え、経済学と倫理学の荒野を転戦する変革者の軌跡。暖かい心と冷静な頭脳と。
目次
パレート派リベラルの不可能性(1970)
選択・順序・道徳性(1974)
自由・全員一致・権利(1976)
合理的な愚か者―経済理論における行動理論的な基礎への批判(1977)
個人の効用と公共の判断―あるいは厚生経済学のどこがまずいのか?(1979)
何の平等か?(1980)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Yuka
6
ゆっくりじっくり読む時間がないとなかなか理解が追いつかず、読み始めてから数ヶ月経ってしまった。 ロールズの正義論では、特に障害者の被る不利益に関して乗り越えきれなかったところを基本的な潜在能力の平等という考え方を提示したノーベル厚生経済学賞のアマルティア・セン。 その考えに魅力を覚えつつも、現実社会で如何に実現できるのかは未知。そこを乗り越える研究がしたいと改めて思った。 訳者による最後の解説が興味深いので先にこっちから読めばよかったなと読み終えてから思いました。2024/08/12
roughfractus02
4
個人の効用と集団の厚生は同時に成立しないというK・アローのパラドクスを見据えた著者は、個人を利己という計算しやすい設定にした古典派以来の経済学概念自体を疑う。彼は数理的な場面でも計算しやすい順序平面を用いず、柔軟性のある準順序を採用した。本書は、効用を合理的な利己以外にも求め、社会を構成する際の「共感」と「コミットメント」に見出して、一括してcapability(潜在能力)と呼ぶ。この位置付けは、利己と対立しない。人は利己的でありつつ社会を構成可能にする不合理さを持つからだ。ここから経済学は倫理学になる。2020/07/01
有沢翔治@文芸同人誌配布中
2
アマルティア・センは、単純に定量化していると従来の経済学を批判して新たな経済学を打ち立てようとした。アダム・スミスに立ち返り、倫理学と経済学を接合したのである。本書は表題の論文他、全会一致と自由尊重の逆説を論じた「パレート派リベラルの不可能性」など六編を収録。https://shoji-arisawa.blog.jp/archives/51532009.html2023/12/12
がっち
2
難しくて、私にはまだはやかったように思えるが、経済に倫理というものを取り入れた第一人者である。合理的が必ずしも正しいわけではなく、そして厚生経済をつかって再分配するべきである?という論であろうか。また読み貸さなければならない本だった。2013/04/20
葉
0
Amartya Senはアローから社会的選択理論を摂取し、経済学と倫理学を再統合することに精進したらしい。なので、序盤に、アローの社会的構成関数(その値域が順序に限定されている集団的選択ルールの1つ)や社会的決定関数(値域が選択関数を生成する社会的選好関係に限定されている集団的選択ルールの1つ)などの定義が書かれている。囚人のジレンマの例を挙げ、合理性についてやプラグマティックな解釈で倫理的展開を考え、譲渡可能について書かれている。エッジワースの数理心理学が主題の最初に述べられている。読み物だが面白い。2015/01/06