出版社内容情報
本書は,あらゆる段階の数学の教授・学習に関わった著者による,誕生から大人になるまでの発達を通した数学的思考の枠組みに焦点を当てた書である。
最初に,本書で示す理論の概略を示す。次に,高校までの学校教員用の教材を取り上げながら,形式的・公理的思考に結びつく洞察を体験していく。これは,すべての段階の数学教員に役立ち,学校数学を包括しており,さらにその成果も紹介していく。その後,本書の理論を数学の歴史的発展に位置づける。さらに,大学段階にふさわしい発展教材を紹介し,数学的思考を引き続き体験していく。これは,数学を専門としない人でも可能である。最後に,全体の枠組みと他の理論の枠組みとの関係を振り返る。ある文脈で通用するが別の文脈では通用しなくなる事例を取り上げながら,様々な理論を組み合わせた新しい理論をも示す。また,様々な理論の中でどれがよいかを議論するのではなく,様々な文脈に活用できる理論を検討するとともに,相矛盾する理論が一貫した意味になるためにはどう組み合わせたらよいかも示す。
総じて,様々な背景を持つ読者が,数学の教授・学習における広い理論の枠組みと関係する実際の事例を理解できるよう,簡単な工夫を凝らしながら,基本的な考えを定式化し,数学的思考の発達を捉える枠組み全体を明らかにしていく。その枠組みは,子どもから大人までの人間発達に活用できるだけでなく,歴史上の数学の文化的発展や今後の数学的思考の理論の発展にも活用できるだろう。
数学を教授する立場にある人にはもちろんのこと,数学を学習する人にとっても,どのように数学の理解が進んでいくかに関する示唆を受け取ることによって,大いに有益なものとなるであろう。
第I部 前奏
第1章 本書について
1.数学について思考する子ども
2.数学的思考の長期発達
3.理論枠組み
4.概念と過程の両方を表す記号
5.知識圧縮
6.数学三世界
7.我々が持つ能力
8.経験に基づく知識
9.「生まれつき備わっていること」と「以前にみたこと」
10.知識構造の結びつき
11.数学学習の情意的側面
12.結晶概念
13.簡単な概観
第II部 学校数学の背後にある論理とその因果性
第2章 数学的思考の基盤
1.言語
2.図形の初期経験
3.意識的思考の3つのレベル
4.幼児期の数概念
5.計算の初期段階
6.過程と概念としての記号
7.結晶概念としてのプロセプト
8.算術の成果における相違
9.振り返り
第3章 数学的考えの圧縮化・結びつけ・融合化
1.思考可能概念への圧縮化
2.カテゴリー化
3.カプセル化
4.定義づけ
5.思考可能概念と知識構造
6.要約
第4章 生得的構造・経験的構造・長期学習
1.生得的構造の概念
2.経験的構造
3.支持的概念と問題提起的概念
4.要約
第5章 数学と情意
1.用具的理解と関係的理解
2.スケンプの目標と反目標の理論
3.数学不安
4.一般化と拡張による融合
5.支持的概念と問題提起的概念
6.目標と成功
7.結び
第6章 数学三世界
1.数学三世界
2.具象
3.概念的具象世界
4.具象化から操作的記号化への移行
5.公理的形式世界
6.これまでの話
第7章 具象世界と記号世界を通る旅
1.知識構造の圧縮
2.具象世界における高まっていく複雑さ
3.帰結
4.具象世界、記号世界、そして形式世界の長期的な発展
第8章 問題解決と証明
1.問題解決
2.授業研究
3.証明についての思考
4.形式的証明
第III部 間奏
第9章 数学の歴史的進化
1.記数法の発展と初等算術
2.幾何学と証明の発展
3.代数学の発展
4.代数学と幾何学を繋ぐ
5.微積分
6.複素数の意味づけ
7.現代の形式主義的数学の誕生
8.コンピュータの役割
9.要約
第IV部 大学数学とその先
第10章 形式的知識への移行
1.具象世界および記号世界から形式世界への主要な革新
2.集合と関係
3.実数と極限
4.自然なアプローチと形式的アプローチ
5.理論枠組みの比較
6.さらなる大きな図
7.考察
第11章 微積分に見る考えの融合
1.微積分概念の起源
2.微積分指導の問題点
3.微積分への局所直線アプローチ
4.ライプニッツの再訪
5.媒介変数関数
6.合成関数と連鎖律
7.逆関数
8.極限概念の導入
9.動的に具象化された連続から形式的な定義へ
10.連続なグラフ下での面積
11.微分方程式
12.偏微分
13.具象化と記号化の関係
14.省察
第12章 数学者の思考法と構造定理群
1.初学者と専門家の比較
2.証明過程と真であることの保証
3.構造定理群および具象世界と記号世界の新形式
4.選択と帰結
5.新たな組織化原理
第13章 無限小を熟考する
1.無限大と無限小に対する対照的信念
2.無限小を含む順序体
3.無限小を用いる微積分学
4.超実数を作る
5.教育上の帰結と局所直線性
6.微分可能な関数を拡大する
第14章 数学研究におけるフロンティアの拡大
1.問題の解決と定理の証明
2.形式世界における数学的理論の多様性
3.幾何学と代数学の発展の対比
第15章 回想
1.理論全体を見る
2.数学における思考可能概念の発達
3.数学三世界を通じた人々の旅
4.通用する内容と通用しない内容に関連する情意
5.拡張的融合
6.理論枠組みの発展:通用する内容と通用しない内容
7.指導への示唆
8.理性的思考
結語
付録 本書の着想の出所
David Tall[ デイビッド トール]
礒田 正美[イソダ マサミ]
岸本 忠之[キシモト タダユキ]
目次
第1部 前奏(数学について思考する子ども;数学的思考の長期発達 ほか)
第2部 学校数学の背後にある論理とその因果性(数学的思考の基盤;数学的考えの圧縮化・結びつけ・融合化 ほか)
第3部 間奏―数学の歴史的進化(記数法の発展と初等算術;幾何学と証明の発展 ほか)
第4部 大学数学とその先(形式的知識への移行;微積分に見る考えの融合 ほか)
著者等紹介
礒田正美[イソダマサミ]
筑波大学大学院修士課程教育学研究科修了。現在、筑波大学教育開発国際協力研究センター長/人間系教授、博士(教育学):早稲田大学、国際数学歴史教育学会顧問委員、コンケン大学名誉博士、イグナチウスロヨラ大学名誉教授。専門は数学教育学
岸本忠之[キシモトタダユキ]
筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。現在、富山大学人間発達科学部教授、修士(教育学)。専門は数学教育学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hsg
-
- 電子書籍
- 伝わるスライドデザイン大全 パワポ作成…