出版社内容情報
今後一層の発展が期待される「量子情報」を,群論を通じてその背後にある数学的構造を明らかにする構成をとりながら解説した野心作
群論的対称性は量子力学における最も基本的な概念であり,物理学の様々な分野で活用されてきた。量子系の特徴を積極的に用いて情報処理を行う量子情報においても同様で,重要な位置を占めることは間違いない。しかし,量子情報の個別の研究においては群論的手法の導入は進んでいるものの,それを体系的にまとめた書籍は英文のものを含めて存在しない。そこで本書では,群論的考え方が量子情報の基本的なインフラとして機能するように,量子情報の様々な概念を群論的対称性の観点から統一的に捉え直すことを試みた。
線形代数や微積分,確率統計の一定の知識はあるものの群論の知識を一切有しない読者は,同時刊行の「量子論のための表現論」を参照してほしい。
本書はまず第1章で量子情報の基礎概念を説明し,量子系を記述するための数学的な記号を準備する。第2章では量子情報の基礎となる量子通信路や情報量に関する基礎的内容をまとめ,この後にエンタングルメント,量子誤り訂正,最適測定,ユニバーサル情報処理といった多岐にわたる量子情報の個別のテーマを扱っている。
第1章 量子系の数学的基礎
1.1 系,状態および測定
1.2 合成系
1.3 多体系
1.4 文献の紹介
第2章 量子通信路,情報量とその数学的構造
2.1 量子系での通信路
2.2 測定に伴う状態変化
2.3 凸集合と不等式
2.4 量子系での情報量
2.5 Qubit系
2.6 情報処理不等式
2.7 相対エントロピーとRenyiエントロピーの関係
第3章 エンタングルメントとその定量化
3.1 局所操作
3.2 量子テレポーテーション
3.3 エンタングル状態の例
3.4 セパラブル状態の特徴付け
3.5 エンタングルメントの定量化I:幾何学的方法
3.6 エンタングルメントの定量化II:操作的方法
3.7 エンタングルメントの定量化III:凸分解を用いた手法
第4章 群共変性と最適情報処理
4.1 共変的状態族と最適測定
4.2 近似状態の生成
4.3 群作用の識別
4.4 通信路と対称性
4.5 近似的状態複製
第5章 量子誤り訂正とその応用
5.1 古典系での代数的構造に基づいた誤り訂正符号
5.2 量子誤り訂正の一般理論
5.3 離散Heisenberg表現を用いた符号
5.4 Clifford符号
5.5 エンタングルメント蒸留と一般の通信路への適用
5.6 量子秘匿通信
5.7 量子暗号(量子鍵配送)への応用
第6章 ユニバーサルな情報処理
6.1 タイプ理論
6.2 Schur双対の漸近理論
6.3 量子2準位系の状態推定
6.4 ユニバーサルな量子状態の近似
6.5 エンタングルメント集中化
6.6 量子情報源符号化
6.7 古典-量子通信路符号化
目次
第1章 量子系の数学的基礎
第2章 量子通信路、情報量とその数学的構造
第3章 エンタングルメントとその定量化
第4章 群共変性と最適情報処理
第5章 量子誤り訂正とその応用
第6章 ユニバーサルな情報処理
著者等紹介
林正人[ハヤシマサヒト]
1994年京都大学理学部卒業。1999年京都大学大学院理学研究科博士後期課程(数学・数理解析専攻)修了。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員、科学技術振興機構ERATO今井量子計算機構プロジェクト技術参事、同ERATO‐SORST量子情報システムアーキテクチャーグループリーダー、東北大学大学院情報科学研究科准教授を経て現在、名古屋大学大学院多元数理科学研究科教授。博士(理学)。専門、量子情報理論、量子暗号、情報理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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