出版社内容情報
自己と他者の脳内表現について,古典的な哲学の捉え方から,脳機能イメージング研究や脳損傷患者の症例など最新の知見まで紹介。
内容説明
脳内の「自己」と「他者」の探求から「身体性」と「社会性」の脳メカニズムに迫る。拡大・深化を続けている認知科学の新シリーズ創刊。ここに知性の姿が明らかになる。
目次
第1章 自己とは何か
第2章 世界の中の自己―“I can,therefore I am”
第3章 感じる自己―自己の「存在感」はどこから来るのか
第4章 ミラーシステム―なぜ他者とわかりあえるのか
第5章 脳のなかの「他者」―それでも人の気持ちはわからない?
第6章 共感からwe‐modeへ―「われわれ感」の脳メカニズム
第7章 プロジェクションと物語的自己―身体性の彼方へ
著者等紹介
嶋田総太郎[シマダソウタロウ]
2001年慶應義塾大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。専門分野、認知脳科学。現在、明治大学理工学部教授、博士(工学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りょうみや
25
自己と他者の認識に身体が深く関わっていることが数々の脳科学の実験例からよく分かる。この自己と他者は哲学においても根源的な分野であって、本書では各章の最初に関連する哲学書からの引用と解説をしている点が特徴的。脳科学を勉強した哲学者による解釈ではなく、脳科学者による哲学書の解釈というのは新鮮。この「越境する認知科学」シリーズは専門分野の入門書の位置付けで易しくはないがもっと読んでみたくなった。2022/09/07
テツ
11
自己とそれ以外の他者の間に広がる絶望的な断絶。それと比べたら人と人の間に生まれるいわゆる「差」なんてものは無視できるくらいに小さなものだとこどもの頃からぼんやりと感じていた。自己を認識する(した)きっかけは何か。何をもって「これ」を自己だと認識し、何をもって他者と区別しているのか。哲学的な側面から積み重ねられるお話と脳科学的な側面からの検証とが丁寧に語られていく。自分自身の成り立ちすら全く理解できないのに他者のことなど解る筈がない。自己の奥底に到達するまで他者への興味など生まれない。2023/07/18
shin_ash
6
哲学から出発し脳科学的な実験結果を重ねることで自己と他者の認識のメカニズムを語っている。自己について→他者について→共感について→意識の出所と話が進んでいくが、哲学から出発しているからか話の構成が秀逸からなのか「自己」「他者」「世界」「意識」などのモヤッとする世界を非常に分かりやすく語ってくれる。ダマシオの仮説も本書を読んでからの方が分かりやすい気がする。最後に記号論的な話との関連が出てくるあたりがワクワクする。全くそういう話は出てないが、機械学習と記号論との接続なんかもこの様な理解が下敷きになるだろう。2021/05/07
センケイ (線形)
5
自己や意識、他者についての哲学的な分析を、神経心理学等と結びつける挑戦的な試み。現時点ですべて分からないながらも、接点を見出す試行錯誤が刺激に満ち、また実際に今後の研究に対しても基礎を提供することだろう。一時期よく耳にした心の理論についてもよく復習できる。こうしたところから、人間の思考の複雑さやその意義が垣間見えて、良い。2020/01/26
mim42
4
かつて「認知心理学」なるラベルの下に在った研究領域。今も認知科学の大傘の中で発展的に生きている。学際的な研究の書たる本書の構成は、章頭に必ず大文字哲学が置かれる。中には強引な接置に過ぎないものもあるが、例えばメルロ=ポンティの言説は本書では極めて重要。論の流れは自己から他者へという道筋。この中で身体所有感と運動主体感、情動的自己、ゴム手錯覚、ミラーシステム、心の理論、脱今ここ等の概念が実験結果の考察とともに論じられる。最後はダマシオの自己三分類に矛盾しない物語的自己同一性へと至り果てる。2020/03/24