出版社内容情報
●内容
増殖,分化,発生,ストレス応答などの生物機能がどのように生み出されるのかを知るためには,細胞の基本的構成要素である遺伝子,タンパク質の個々の働きだけでなく,それらの全体的な相互作用ネットワークの構造を理解することが必要である。そして,そのような複雑な細胞システムを理解するためには,情報科学,工学を含む幅広い分野の知識や方法が必要である。
物理学をはじめ情報科学や工学には,基本的原理や法則があり,これらの原理や法則に基づいて,自然界の複雑な現象を理解したり,人工物の設計を行ったりすることができる。一方,ゲノム科学の進展や生体分子測定技術の進歩により,細胞内の複雑な分子間相互作用ネットワークの構造が急速に解明されつつあり,これをさらに推し進めていけば,生物の中の基本原理や法則を見いだすことができるであろう。
本書はこのような考え方に基づいて,細胞の分子ネットワークの構造と機能の関係の中に普遍的設計原理を発見することに挑戦している。ネットワークモチーフという基本構造から多様な生命機能が理解できることを示すことに成功しつつあり,他にも,適応を実現するための積分フィードバック,遺伝子翻訳や免疫システムにおけるエラー校正システム,細胞増殖のための分子ネットワークの最適化というように,工学のアナロジーに基づいた原理や法則が発見されつつある。
システム生物学に関心のある研究者,技術者,学生に,生物の設計原理の新規性や面白さを伝え,システム生物学に対する理解を深める本であり,学部~大学院における標準的テキストとして活用できる。
●目次
第1章 序
第2章 転写ネットワーク
2.1 はじめに
2.2 細胞の内外環境の認知問題
2.3 転写ネットワークを構成している要素
2.4 単純な遺伝子制御のダイナミクスと応答制御
第3章 自己制御:ネットワークモデル
3.1 はじめに
3.2 パターン,ランダムネットワーク,ネットワークモチーフ
3.3 自己制御:ネットワークモチーフ
3.4 負の自己制御による遺伝子回路の応答時間の加速
3.5 負の自己制御による生産揺らぎに対するロバストネスの促進
3.6 まとめ
第4章 フィードフォワードループネットワークモチーフ
4.1 はじめに
4.2 ランダムネットワークにおける部分グラフの出現回数
4.3 フィードフォワードループはネットワークモチーフ
4.4 フィードフォワードループ遺伝子回路の構造
4.5 AND論理下でのタイプ1コヒーレントFFLの動的挙動
4.6 タイプ1コヒーレントFFLはオン・オフ感知性の遅延要素
4.7 タイプ1インコヒーレントFFL
4.8 なぜある種のFFLはまれにしか現れないのか
4.9 FFLの収束進化
4.10 まとめ
第5章 転写ネットワークの時間プログラムと全体構造
5.1 はじめに
5.2 単入力モジュール(SIM)ネットワークモデル
5.3 SIMは時間発現プログラムを作り出す
5.4 ネットワークモチーフの形状的一般化
5.5 マルチ出力FFLによるFIFO時間順序の生成
5.6 シグナルの統合化と組合せ制御:バイファンと密重複レギュロン
5.7 センサー型転写ネットワークのネットワークモチーフと大域的構造
第6章 発達,シグナル伝達,神経ネットワークのネットワークモチーフ
6.1 はじめに
6.2 発生転写ネットワークのネットワークモチーフ
6.3 シグナル伝達ネットワークのネットワークモチーフ
6.4 多層パーセプトロンを使った情報処理
6.5 合成ネットワークモチーフ:負のフィードバックと振動モチーフ
6.6 線虫の神経ネットワークにおけるマルチ入力FFL
6.7 まとめ
第7章 タンパク質回路のロバストネス:細菌の走化性の例
7.1 ロバストネスの原理
7.2 細菌の走化性,細菌の思考方法
7.3 大腸菌の走化性タンパク質回路
7.4 正確な適応を説明する2つのモデル:ロバストとファインチューン
第8章 発達のロバストなパターニング
8.1 はじめに
8.2 モルフォゲン指数分布はロバストではない
8.3 自己強化モルフォゲン分解によるロバストネスの増大
8.5 ロバストネス原理を用いてショウジョウバエのパターニングのメカニズムを解明する
第9章 動力学的校正
9.1 はじめに
9.2 遺伝暗号の動力学的校正は分子認識の誤り率を低下させる
9.3 免疫系は自己と非自己を識別する
9.4 動力学的校正は細胞内の多様な認識プロセスで行われる
第10章 最適遺伝子回路設計
10.1 はじめに
10.2 一定条件下のタンパク質の最適発現レベル
10.3 制御することしないこと:可変的環境の最適制御
10.4 フィードフォワードループネットワークモチーフの環境選択
10.5 まとめ
第11章 遺伝子制御の需要法則
11.1 はじめに
11.2 Savageauの需要法則
11.3 最小エラー負荷に基づく遺伝子制御の法則
11.4 最適制御に対する選択圧
11.5 マルチレギュレーターシステムに対する需要法則
11.6 まとめ
第12章 エピローグ:生物学の単純性
付録1 遺伝子の入力関数:ミカエリス-メンテン式とヒル式
付録2 多次元入力関数
付録3 転写ネットワークのグラフ性質
付録4 遺伝子発現の細胞間変動
用語解説
目次
序
転写ネットワーク:基本概念
自己制御:ネットワークモチーフ
フィードフォワードループネットワークモチーフ
転写ネットワークの時間プログラムと全体構造
発生、シグナル伝達、神経ネットワークのネットワークモチーフ
タンパク質回路のロバストネス:細菌の走化性の例
発生のロバストなパターニング
動力学的校正
最適遺伝子回路設計
遺伝子制御の需要法則
エピローグ:生物学の単純性
著者等紹介
倉田博之[クラタヒロユキ]
1988年東京大学工学部化学工学科卒業、1993年東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了。博士(工学)。1993年東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻助手、1994~1996年カリフォルニア大学デービス校植物病理学科研究員、2000年九州工業大学情報工学部生物化学システム工学科助教授、2006年九州工業大学情報工学部生命情報工学科教授
宮野悟[ミヤノサトル]
1977年九州大学理学部数学科卒業、1979年同大学大学院理学研究科修士課程数学専攻修了。理学博士。1979年九州大学理学部基礎情報学研究施設助手、1981年数学科助手。1984~1987年西ドイツAlexander von Humboldt Research Fellow、1987年西ドイツPaderborn大学情報科学科助手、1987年九州大学理学部基礎情報学研究施設助教授、1993年同教授を経て、1996年より現職。現職、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授。専攻はバイオインフォマティクス(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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