出版社内容情報
本書は人類が自らの住む世界,つまり宇宙をどのように捉えてきたかを統一した視点から論じるユニークな本である。宇宙全体を客観的対象と捉えて研究する学問を宇宙論と呼ぶ。すなわち,本書が扱うテーマは古代メソポタミアの人々から現代の職業研究者まで,数千年のタイムスケールで進化してきた宇宙論のいわば進化の歴史である。自らの目のみを観測装置としていた宇宙神話創生期の人々にとって,宇宙を統べる法則は地上とは切り離され,「理由」を考えることを拒み,ただそこに存在するものであった。時代とともに人々の思索は発展し,宇宙の法則は生きる術としての生活規範からそれ自体を考える対象へと変わってゆく。実は,宇宙論は意外なほど早い時代に神話と決別している。誤解されがちだが,古代ギリシャをはじめとするこの時代の天文学観測は近代から見ても驚くべき精緻な体系を誇る,まさに宇宙論そのものである。著者はとかく素朴で原始的とみなされがちなこの時代の宇宙論が,当時としては最新の理論体系であり,その意味で現代宇宙論の最先端と何ら遜色がないことを最初に強調する。自然哲学の成立の中で宇宙論はその位置づけを何度か変えつつ,美しい天の理論が作られていった。しかし宇宙論の発展は決して単調ではなく,極めて非線形かつ複雑である。キリスト教教義の浸透による停滞を経て,神学,宗教的教条との関係を最後まで引きずりつつも,自然科学の成立の一部として宇宙論もその形を整えてきた。近代物理学の成立とともに宇宙論もついに科学として成立してゆく。銀河宇宙,宇宙膨張という驚異の観測的発見と,古典力学,電磁気学,統計力学,相対論そして量子論までに至る物理学によって,宇宙論は現代も驚くべき速さで発展している。しかし,その流れの中で古代の神話に見られた観点の転換が何度も繰り返されている。本書には物理学の専門的解説も多く含まれるものの,苦手な方はそれを読み飛ばしても十分読みごたえがある内容に仕上がっている。宇宙物理学に関わる研究者はもちろん,天文学史に興味のある読者,宇宙について素朴な疑問を持ち続けている一般の天文ファンの方々,そして単純に宇宙と神話にロマンを感じるすべての方にお薦めする。
第0章 序章
第1章 神話からコペルニクス的宇宙像へ
1.1 古代の宇宙論的思索
1.2 ギリシャ人の宇宙
1.3 中世の宇宙論
1.4 コペルニクス的転回
第2章 ニュートン的宇宙像の時代
2.1 ニュートンの無限宇宙
2.2 啓蒙時代の宇宙論
2.3 宇宙物理学と星雲
2.4 熱力学と重力
2.5 天の川
第3章 現代宇宙論の成立
3.1 初期の相対論的宇宙モデル
3.2 膨張宇宙
3.3 有限の年齢をもつ宇宙へ
3.4 代替宇宙論
第4章 高温ビッグバン理論
4.1 宇宙論?核物理学の一分野か?
4.2 定常宇宙論の挑戦
4.3 相対論的標準宇宙論
第5章 新たな地平
5.1 初期宇宙論
5.2 驚異の観測事実
5.3 人間原理および他の思弁
5.4 創世の問題
5.5 宇宙論の展望
内容説明
神話から哲学、そして宗教から科学へ。宇宙論が紆余曲折を経て科学となった歴史を描き出す!
目次
第0章 序章
第1章 神話からコペルニクス的宇宙像へ
第2章 ニュートン的宇宙像の時代
第3章 現代宇宙論の成立
第4章 高温ビッグバン理論
第5章 新たな地平
著者等紹介
竹内努[タケウチツトム]
1994年京都大学理学部卒業。2000年京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士後期課程修了博士(理学)。2001年東京大学天文教育研究センター研究員。2002年国立天文台研究員。2004年マルセイユ天体物理学研究所研究員。2005年東北大学大学院理学研究科研究員。2006年東北大学大学院理学研究科助手。名古屋大学高等研究院講師。2011年‐現在、名古屋大学大学院理学研究科准教授(現職)。専門:宇宙物理学・応用統計学
市來淨與[イチキキヨトモ]
2000年京都大学理学部卒業。2005年東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士後期課程修了博士(理学)。国立天文台学術振興会特別研究員。2006年ビッグバン宇宙国際研究センター学術振興会特別研究員。2008年名古屋大学大学院理学研究科助教。2013年‐2015年名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構基礎理論研究センター助教。2015年‐現在、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構基礎理論研究センター講師。専門:宇宙物理学・観測的宇宙論。受賞歴:平成16年度東京大学総長賞
松原隆彦[マツバラタカヒコ]
1990年京都大学理学部卒業。1995年広島大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科助手。1998年ジョンズホプキンス大学物理天文学部研究員。2000年名古屋大学大学院理学研究科助教授。2007年‐現在、名古屋大学大学院理学研究科准教授(現職)。2010年‐現在、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構基礎理論研究センター准教授(兼任)。専門:宇宙論・宇宙物理学。受賞歴:1997年第13回井上研究奨励賞、2013年第17回日本天文学会林忠四郎賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。