出版社内容情報
精神科医・中井久夫の文章や言葉、臨床作法の魅力に迫る。【対談】松浦寿輝×斎藤環【論考】神田橋條治、山中康裕、春日武彦、松本卓也、保坂和志他。単行本未収録対談・エッセイも収録。
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感想・レビュー
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algon
9
何者?ってのがこのシリーズで知った最初の印象。覚えてみると度々目にする名前なので著名な精神科医という印象だけで手に取った。殆どの著述が精神科医、もしくはその分野のエキスパートたちが仰ぎ見るように敬意に満ちた姿勢で中井久夫を評していた。本書は死後の追悼文を加えた増補新版。英独仏そしてギリシャ語に堪能で詩集の翻訳も手掛け長い間日本の精神科域をリードしてきた。医業業績の評論は門外漢は理解の外だったが阪神大震災時「神戸には中井久夫が存在している。その知性は一条の光のように出口を照らすだろう。」印象的な凄い評だと。2024/06/19
縞目
0
病に関する言葉にうんざりした中井が、詩の翻訳で「空」や「海」や「花」に出会い直す話がおもしろい。これって、患者の立場で中井の、専門用語が少ない言葉に出会うのに似てないか。医者もまた、患者になりうる。病むとは、ある語彙にとらわれること。だから、回復するためには、語彙をひらく必要がある。中井にとって詩は、(医者/患者にとっての)日常とはちがう世界を示す実用品だったのだと思う。後期ウィトゲンシュタインの発想に近い。中井の言葉は、かれがふれてきた詩の言葉からきている。彼において、詩人と医者はひとつなのだ。2025/07/07
ぽぽる
0
たとえば、本書のある論考で、「世界における索引と徴候」を「世界における徴候と索引」と誤記している箇所がいくつもあったが、それに触れる際に心の裡に広がる記憶との齟齬や追憶に刻まれたリズムとの違和こそ、積分的認知や索引的世界を示すものだろう。2024/04/24