内容説明
著者自身が厳選した待望の著作集。芥川賞受賞の畢生の傑作「杳子」のほか初期の名作「妻隠」「行隠れ」「聖」を収録―。感覚と知覚の揺らぎ、過剰と欠如、重く鋭利な文体、エロティシズムとユーモア、愛の可能と不可能…常に新しい読みを促す、古井文学の原点。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くさてる
13
最近の作品集を読んで打ちのめされてしまったので、初期から読んでいこうと思いました。最近の作品の、流れるように捉えどころのない、しかし他の比べるもののない世界に比べると、まだ読んでいて、つかまるものがある感がします。けれど、その結果現れる世界は、やはり比べるもののない世界。とりわけ「杳子」の圧倒感は、精神に負荷のかかっているひとは読まない方がいいような感応に満ちています。いやすごい、すごかった。2014/04/16
michel
11
★4.6。冒頭から一気に由吉ワールドへ。古井由吉の内に内に向かっていく文章が、物語を引きずってゆく。泰夫は両親と二人の姉と暮らす二十歳。下の姉の結婚を明日に控えた夕暮れ時。右足が不自由な姉が家族の前から消える。彼女の行方を案じる泰夫の追憶が、現在と混ざり合い幻想的に揺らぐ。特に結婚式や通夜の人間の心理描写は、圧巻。暗澹たる物語世界で、肉感、視線、臭い、温感…ねっとりと読者の内側にまとわりついてくる。終盤におけるお線香の煙の漂い方の描写は、映像より濃厚に印象付けてくる。古井由吉の文字に溺れ死にたい。 2022/03/23
なぎ
8
とても美しい日本語で書かれています。そして文章から醸しだされる芳醇で生々しい雰囲気に飲み込まれました。朝吹さんの解説がとても良くて、自分手は表現的ないものをうまく言ってくれていました。時代は感じるけれども褪せていない。描写が細かく目に浮かぶ小説集です。出てくる女の人が皆奔放でつかめない感じがいいです。2016/11/23
mami
6
音の無い世界にひきずりこまれるような感覚。虚と実が分からなくなってくるような。2016/04/23
wakabon
5
古井由吉の小説は今回初めて読んだが、素晴らしい!まだ、こんな作家が日本の現代文学に存在したのか、と実に久しぶりの衝撃を味わった。物語の筋があるようで無いような、人間の精神状態がつぶさに描かれるようでいて、心理描写が細かいというわけでもなく、曰く言い難いが、読んでいる間の存在が微分化されるような感覚はかつて味わったことがなく、魅きつけられてしまう。結末に至っても小説内に流れる時間が、そのまま持続するかのようだ。2012/09/09