内容説明
龍潭譚=母を亡くして間もない少年が、夢のような世界の中で、怪しいまでに美しい女と出会い、幻の乳房を吸い、幻の血を見る。さゝ蟹=彫刻の名人が亡くなって、その道具も売り払われた寂しい晩に、名人が心に懸けていた蟹の彫刻が、仏壇から走り出た。幻往来=大学病院の近くで医学生が見かけた美しい病人。やがて医学生は、その面影を遊廓の中でも見るほどにとり憑かれていく。高野聖=山中に迷いこんだ若い僧が、出会った美女に谷川での水浴びを勧められ、美女の肌に心惑わされる。しかし、その女こそ自分と交わった男を次々と動物の姿に変えてしまう妖女だった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tonex
36
「鏡花幻想譚」シリーズ第1巻。解説や注が充実していて読みやすい。イラストマップ、あらすじに加え、主な登場人物の紹介が本文の前についていて、ストーリーの理解にかなり役立つ。というか、こういう予備知識がないと泉鏡花は難しくて読めない。【龍潭譚】泉名月氏(泉鏡花の姪)の解説によると、「乳首文学」らしい。【さゝ蟹】蟹文学。「ささ」とは「小さい」意。「ささ蟹」とは小さい蟹のこと。主人公のお京さんは良いキャラ。【幻往来】吉原の遊郭や路上で何度も美女の幽霊と出会う話。【高野聖】解説によると、妖女の魔力の源は水。確かに。2016/05/06
井月 奎(いづき けい)
31
河出書房新社様、ありがとうございます。このシリーズの素晴らしさをあげるときりがありませんが、一つ二つ。まずは総ルビを行っているのが、味なことをやりなさる、なのです。鏡花はただ読みやすさのためだけにルビをふるのではありません。例えば、この巻に入っている話ではありませんが、「春昼後刻」では枚頁、「続風流線」では枚、と書いてページ、とルビをうち、これで印刷上の字は漢字であり体裁が整いながらも読んでいるものは洋綴じの本だと分かります。あ、文字数が足りません。というより私の文章力が足らぬのです。悪しからず。2018/09/20
まさ
28
鏡花の描く異世界。シリーズの第1巻だけあって、鏡花の妖しさに触れるのに程よい。このシリーズの意図する部分が伝わってきたように思うけど、記念館を訪ねていろいろと学びたい気分。何度も読んでしまう『高野聖』もこちらに収録です。2020/07/15
ねね
10
旧かな遣いともちょっと違う、明治記ならではの文体。幻想譚、と言うにはちょっと弱いような気がする。怪談話というか…。割合にさばさばした文体のせいかな?「幻往来」なんて最たるものだな。「さゝ蟹」が好きです。お京さんが「私やね、盗賊(どろぼう)をするからね。」と皆の前で宣言したり、伯父さんを言い負かしたりと肝の座り方や、それでいて乙女なトコが「化物語」の戦場ヶ原のようw「高野聖」の女の正体がなかなか面白かった。魔性の女って感じ。2014/08/20
凛風(積ん読消化中)
7
『龍潭譚』『さゝ蟹』『幻往来』『高野聖』の4篇を収める。どれも何回か読んでいるが、『龍潭譚』の冒頭、ツツジで真っ赤に染まった山中を迷い歩くシーンは、本当に怖い。ひたひたと不安になる。泉鏡花は好きだけれど難しい。ある意味クセすごで、時々、理解できない場面展開があったりする。でも、この本は総ルビで、しかもネタバレのあらすじ付きで超親切設計。分かりやすい。龍も出て来ないのになぜ『龍潭譚』というタイトルなのか分からなかったのが、少年が山中で出会う美女を龍の化身と、思わせる仕掛けだったと気づけただけでも収穫。2021/07/16
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