内容説明
現代を、「いわゆる異端の幻想文学が正統の位置に取って代わりかねない」時代だと言ったのは渋沢龍彦自身である。これは正統と称される文学のいかがわしさを常に感じてきた作家であればこそ言えることではないだろうか。むしろ文学は常に異端と信じていたのではないか。渋沢龍彦のペダントリイは「いわゆる異端」の物語を脱構築して、いつの時代にもわれわれに必要な、異端を快楽できる方法、つまりは文学を「正統に」文学する喜びを教えてくれるのだ。
目次
幻想博物誌
悪魔の中世
玩物草紙
世界幻想名作集
ビブリオテカ渋沢龍彦1~6
玩具館
補遺 1978―79年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
梟をめぐる読書
11
もとは六〇年代連載のエッセイでありながら単行本として纏めるまでに何故か十七年の歳月を要した『悪魔の中世』が、この巻に収められている。いわば六〇年代澁澤の香気を残す思わぬ〝忘れ形見〟といったところだが、同時に収録された七〇年代当時の連載エッセイ郡と比較してすぐに気付くのは、澁澤がすでに歴史に対する直線的思考(「系譜学」の方法)を脱し、気に入った部分を自由につまみ食いするようなスタイルを完全に我が物にしていたということだろう。人名によって端的に言い表すならそれは「ブルトンからプリニウスへ」という変化である。2013/07/23
白義
7
「幻想博物誌」はプリニウスをはじめ古今の自然誌から奇異な動物のエピソードや幻獣をかき集めて自由にくつろいだ筆致でその魅力を語るエッセイ集。セイレーンが鳥女から人魚に変わっていったことや、竹取物語の火鼠からサラマンダー、アスベストに話を広げたり博識は変わらないが、どちらかというと自然と幻想が一致する観念の宇宙を優雅に楽しみたい人向けで、「悪魔の中世」の気合い張った感じとは好対照2013/04/03
tama
5
図書館本 欧州中世木版画の骸骨の絵を見たくて 文章はなかなか面白そうだが図版不足。あらためて借りようと思います。2019/01/21
季奈
0
「玩物草子」は、しばしば幻想小説体で書かれ、数年後の「唐草物語」への兆候が見える。 十七年の歳月を経て刊行に踏み切った「悪魔の中世」に許可を出した理由としても、澁澤自身が、大幅に改稿する時間的余裕がなかったと語っていることから、別の仕事、つまり小説の創作への関心が徐々に高まったことの示唆が見られる。 また「悪魔の中世」では、元は天使であった悪魔が中国などの仏教的イコンがルーツとされることや、グリルというグレコ・ロマンの宝石に彫刻された異形の文脈から、悪魔の造型が洗練されていったことが語られる。2021/07/18
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