出版社内容情報
裁判に何を期待すべきなのか。ときに不可解、不正義にも見える様々な判決を、法学的にクリアに解説。知っておきたい裁判のすべて。
内容説明
それぞれが異なる意見を持つ社会で、一定の結論をつける手段である裁判。その権力を私たちはどう扱えばいいのか。指標となってきた判例がもたらした変化、そしてその価値を、法学者の目を通して、一挙に学ぶ。
目次
序文 裁判は正義の実現手段ではない
第1章 裁判は政策を問う手段ではない―違憲立法審査権と権利侵害
第2章 日本の裁判所は消極的ではない―中古ゲーム訴訟と判例法理
第3章 裁判所は万能ではない―定数是正訴訟と救済の限界
第4章 権威は絶対的ではない―司法政治論と民主的正統性
第5章 国会はピラミッドではない―政策形成訴訟と立法の氾濫
第6章 裁判は手段であって目的ではない―訴訟の機能を支えるもの
第7章 政治は私的利害の追求(だけ)ではない―議員立法と少数者の人権保障
第8章 民主政に「銀の弾丸」はない―国民主権と司法の役割
おわりに 正義とは正しさではない
著者等紹介
大屋雄裕[オオヤタケヒロ]
1974年生。東京大学法学部卒。名古屋大学大学院法学研究科教授を経て、慶應義塾大学法学部教授。専門は法哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
39
法学部生の教科書みたいな内容ながら、すこぶる面白かった。裁判は正義の実現手段ではない。こんな挑発的な命題を冒頭から投げかけてくる。そもそも裁判は政策を問う手段ではなく、万能でもない。長らく日本では政策形成訴訟が頻発してきたが、再考の時期に来ている。などなど、とってもクールな法哲学者という感じですね。30年近く前に法学を学んだ身としては、法学も大きく変わったんだなという事を実感させられました。それは日本社会の構造変化を反映しているのでしょう。新聞の書評で取り上げられていなかったら読まなかった良書でした。2018/02/19
ゲオルギオ・ハーン
28
裁判所については学校で勉強していたのにあやふやな捉え方になっている。本書は裁判所のできることとできないことのおさらいをしながら、「法律に書いていなければなにもできない」という消極的なイメージの否定、裁判は争うだけではないことを書いている。長くなりやすい法律関係の話を質問形式を用いて簡潔明瞭に書く工夫をしているので読みやすい。本書でよく取り扱われる『中古ゲーム訴訟』では取引を制限することは社会全体への損失でもある(中古が売れると新品が売れないことに懐疑的)と立法に先んじて対応する動きの例でもある。2023/04/29
しゃん
23
これまでの重要裁判を紹介しながら、裁判の可能性と限界が分かりやすく示されていた。本書を読んで、少数者の権利利益を守るための司法の役割はたしかに重要であるが、政策形成訴訟の解説を読んでいるとこれまで裁判所に本来の役割以上のものを期待して来たのではないかとも感じた。また、政治が必ずしもそれぞれの利害関係だけで動く世界だけではないという説明はなかなか興味深いものであった。このような動的な視点から描かれた法学入門の書はあまり知らず、面白く読み通すことができた。2020/05/03
pb_lack
6
裁判の機能や目的から、政策決定や立法と裁判の住み分けについての解説されたもの。個別事件の解決であるという基礎のほか、憲法以外では立法に対しても積極的判断があること、一票の格差訴訟は「勝つと困る」といった性質であること、など一般的イメージから少し捻った事実と立論のおもしろさは著者ならでは。少数者保護立法や政治主導での立法再活性化についてはやや裁判から離れ、個別の事例としてはそうだが…というところもある。あくまで主権者(≒多数派)の意思を重視する、という面が強調されているのはそういえば井上先生もそうだったか。2018/05/19
aochama
5
代表的な訴訟事例を題材に、裁判は正義を実現する手段ではなく、多様な考えをもつ人々との調整機関に過ぎず、過度な期待を抱くべきでないこと、国家の強制力との結びつきを考えるとより慎重な運用をすべきとしています。裁判が正義の味方でない点は、賛同できますね。 国会の定数に関する訴訟が政策形成訴訟であるなど取り上げている個々のテーマの説明は、それぞれ興味深かったです。対話形式部分の構成が難しくなりがちな説明を読みやすくしており、裁判とは何かを考えるによい本と思います。2020/01/26