出版社内容情報
辛口コメディアンのダニエルが生きる現代と、その遺伝子で再生されるクローンが生きる人類滅亡後の世界が交錯するSF的長篇。
【著者紹介】
1958年生まれ。現代フランスを代表する作家。長篇『素粒子』がセンセーションを巻き起こし、世界各国で翻訳される。ほかに『闘争領域の拡大』『ある島の可能性』など。最新作『地図と領土』でゴンクール賞受賞。
内容説明
世界の終わりのあと、僕は電話ボックスにいる―快楽の果ての絶望に陥った過激なコメディアン兼映画監督のダニエルは、“永遠の生”を謳うカルト教団に接近する。二千年後、旧人類がほぼ絶滅し、ユーモアと性愛の失われた孤独な世界で、彼のクローンは平穏な毎日を生き続ける。『服従』著者による“新しい人類”の物語。
著者等紹介
ウエルベック,ミシェル[ウエルベック,ミシェル] [Houellebecq,Michel]
1958年フランス生まれ。1998年長篇『素粒子』がベストセラーとなり、世界各国で翻訳・映画化される。現代社会における自由の幻想への痛烈な批判と、欲望と現実の間で引き裂かれる人間の矛盾を真正面から描きつづける現代ヨーロッパを代表する作家。『地図と領土』(10、ゴンクール賞)、『服従』(15)など
中村佳子[ナカムラヨシコ]
1967年広島生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
70
ウエルベックは、SF的な舞台で極端な状況を設定することで、極限状況での人間性を露わにしようとする。 本書では、カルト教団だからこそのカネに糸目をつけな研究施設で遺伝子が保存されることで、原理的には人は永遠の命を得る、という設定。 カルト教団の教祖が猿山のボスのような存在になることで、ネオ・ヒューマンたちの集団はユーモアや性愛の失われた世界で生き続ける。教祖(ボス)だけは、集団を率いるための虚構を保ち続けなければならないし、性愛を一手に引き受けて子をなしていかないと集団が成り立たなくなる。 2018/02/21
ふみあき
65
ウエルベック3冊目。「愛は個人の自由や、自立の中には存在しない」ということでテーマは一貫してるように思える。そして主人公ダニエルと同年の私にも、それは痛いほど分かる。しかし彼がなぜセックスを人生の一大事に思うのか、なぜ子供という存在を憎悪するのか、なぜエステルのようなくだらない女に執心するのか、なぜイザベルを全身全霊で愛せないのか理解できない。社会生活と物理的接触の消滅した未来、ネオ・ヒューマンの日々は、涅槃の境地と言っていいと思うが、なぜこの理想世界は悪夢に見えるのだろう? お釈迦様は間違っていたのか?2023/02/17
zirou1984
53
文庫版で再読。デビュー作からテーマにし続けたセックスと資本主義という欲望から滲み出る悲哀をベースに現代アートと新興宗教が持つキッチュさを混ぜ合わせ、SFというガジェットでコーティングされた最高傑作。諦観を極めることで見えてくる人類の滑稽さをこれでもかと暴き立て、誰もが目を背けようとする老いと死という現実を呆れるほどに投げつける。「つらい」と思わず声に出したくなる痛みに貫かれながらも、その痛みの先、ぼろぼろになった先にある美しい風景は、愛の可能性を確信させるのだ。全ての痛みが祝福へと変わる瞬間のカタルシス。2016/11/25
かわうそ
43
そろそろ愛よりも老いに心を揺さぶられるアラフォー世代のわたくしとしては容赦なく描かれる老いの絶望に震えることしきり。永遠の倦怠の中に生きる未来人の視点を導入することで苦悩に満ち溢れた人生も案外悪くないのかもと感じさせる構成が巧い。2016/06/12
kazi
40
絶望。読み終わって心がズーンです。この人ほど魂をえぐる作家っていないね!デビュー作の「闘争領域の拡大」から最新の「セロトニン」まで、ウェルベックが著作において扱っているテーマは一貫していると思う。それは自由主義の結果として“性愛”の分野において発生する“競争”であり、“競争”の結果として発生する“敗者”の存在であり、“老化”の必然としてすべての人間は“敗者”となるという事実である。2021/04/04