出版社内容情報
「二度と元の世界には帰れないような気がする」短篇のアンソロジー。エヴンソン、カヴァン、オーツなど、奇妙で心に残る12作。
【著者紹介】
1966年生まれ。現代アメリカを代表する作家の一人。ブラウン大学文芸科教授。邦訳に、『遁走状態』(新潮クレスト・ブックス)などがある。
内容説明
まぶたを縫い合わせた時点で手順を忘れた二人を描くB・エヴンソン「ヘベはジャリを殺す」。二の腕の紋章のようなものの記憶をめぐるA・カヴァン「あざ」。その他、J・C・オーツ、K・カルファスなど短篇の名手たちによる12の物語。妄想、悪夢、恐怖、幻想、不安など、短篇アンソロジー。
著者等紹介
岸本佐知子[キシモトサチコ]
1960年生まれ。上智大学文学部英文学科卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケンイチミズバ
97
これから起こる恐ろしいことを思いながら読み進める。まぶたを糸で縫い付けられた男がもうすぐ友達らしい男に殺されるのを待ってるようだ。ただ、簡単には殺されず。銃もあるのに。マラソンマンでナチの残党は元歯科医の腕を活かしてドリルを使った。ニキータの失敗の後始末に現れたクリーナーは酸を使用した。昔、タイのカンチャナブリで戦争博物館を見学したときに建設現場から逃亡し憲兵につかまったイギリス兵の捕虜が裸にされジャングルの木に縛られて一昼夜放置される拷問の様子を描いた絵を見たことを何故か思い出した。確かに居心地の悪い。2021/09/06
sin
77
繰り返し押し寄せてくる波に魅せられたように、1つの物語を読み終えると気づけば次の物語に進んでしまっていた。収められた作品はいずれも本の表題が示しているように居心地の悪い…そう、言い換えれば不安の塊のような感触を与えられるものなのに、気づけば読み終わってしまっていた。傷が治りかけのかさぶたのように気になってしょうがないといったところでもあろうか?2016/01/22
中玉ケビン砂糖
72
幻想的・不条理・ナンセンスといった紋切り型の言葉では括れないような掌編の数々。『遁走状態』で少し気になっていたからブライアン・エヴンソンを先に読んだが、「こういう系?」という意外性。怯んで本を閉じるもよし、ガッツで読み進めてもよし。多分どれから読んでもいい。つまり少しでも興味をひかれたものから。「潜水夫」「あざ」「やあ、やってるかい!」等々もいいが、「ささやき」での切れ味抜群な一言が、冷たい刃のように胸を刺し貫く。2022/09/03
harass
57
奇妙な味(古ッ)の短編アンソロジー。最初のブライアン・エヴァンソン「ヘベはジャリを殺す」に参る。コントのようなシチュエーションだが説明がなく思わせぶりな描写で進んでいくのが唖然としてしまう。アンナ・カヴァンにも参った。彼女の長編は挫折して積読しているが短編のほうがいいのかもしれない。『オリエンテーション』もいいねえ…… 2016/03/17
澤水月
52
突発性鬱が掌編で癒される…まぶたーっ!な、官能も漂うヘベはジャリを殺す、エグい戦争譚のはずが突如幻想のチャメトラ、どう眠った?などなど、どストライク。日本の実話怪談的なのもあり随筆も拝読した上で実は訳者の中に怪奇は浸み込んでいるのかとも思う。訳文も随筆も岸本印、さすが。数編似た趣向の映画を連想したがどちらかが影響しあっているのか? ケーキは早よせな…と気が気でなかった(笑)。ラストの野球トリビアものは実は幻想譚らしいのに全く疎いため歯が立たず悔しい。ともあれ掌編アンソロは最高。海外作品リハビリしていきたい2016/05/31