内容説明
良質の文学は良質の読者を生み出し、つねに俗悪なものと対峙している―。亡命という大きな悲しみの中で、ナボコフは故国の文学をいかに語ったのか。下巻は、ナボコフがロシア最高の小説家と讃えるトルストイの『アンナ・カレーニン』ほか、チェーホフ、ゴーリキー作品を取り上げる。独自の翻訳論「翻訳の技術」も必読。
目次
レオ・トルストイ
アントン・チェーホフ
マクシム・ゴーリキー
俗物と俗物根性
翻訳の技術
結び
著者等紹介
ナボコフ,ウラジーミル[ナボコフ,ウラジーミル] [Nabokov,Vladimir]
1899‐1977年。作家。ペテルブルグ生まれ。ロシア革命によりベルリンに亡命、ロシア語で執筆を開始。1940年に米国に移住、大学で教えながら、英語での執筆をはじめる。55年に発表した『ロリータ』が世界的な大ベストセラーとなる
小笠原豊樹[オガサワラトヨキ]
1932年生まれ。翻訳家。訳書に、マヤコフスキー『マヤコフスキー詩集』、ブラッドベリ『火星年代記』他。岩田宏の名で、詩人・小説家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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四井志郎の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
70
下巻ではトルストイの「アンナ・カレーニナ」や「イワン・イリッチ」を扱っている。「アンナ」は素晴らしい作品で二度も読んだが、近い将来三度目のトライをしたい。「イワン」については、これも二度は読んでいるが、ナボコフの激賞にも関わらず印象が薄い。これは再再読必須だ。「マクシム・ゴーリキー」も若いころは読んだが、再読したいとは思わなかった。人間的には素晴らしいと再認識させてもらったが、再読は「どん底」だけかな。 2020/03/25
aika
36
二度とは戻れない祖国の文学を余すことなく語るナボコフの熱情を感じました。トルストイ『アンナ・カレーニナ』を時間軸で捉え、さりげない描写から人物や情景を解釈し、アンナやキティの服装まで絵に描くあまりに詳細な注釈ノートには、その情報量に圧倒されました。そして、医師チェーホフがどれほど貧しく病んだ人々のために尽くしたのか、作家その人を生き方の知ることで見える、政治的な思想とかけ離れた所で描かれた人間の暮らし。チェーホフの数多ある作品の中から大好きな短編『谷間』が選ばれ、ナボコフと意見が合って嬉しくなりました。2022/04/16
ぺったらぺたら子
18
華麗な比喩を駆使してチェーホフの魔法を解き明かす講義は見事な切れ味を示すだけでなく、熱く優しく感動的。先生の偏愛する、そして私の最愛の小説でもある小さな宝石『犬を連れた奥さん』については講義自体がナボコフが芸術に何を求めるのか、そして美は世界に何をもたらすのかを示す一つの作品。「伝統的な小説作法のすべては、この二十ページかそこらのすばらしい短編において破られている。ここには社会問題もなければ、ありきたりのクライマックスも、はっきりした結末もない。しかもこれは嘗て書かれた最も偉大な短編小説の一つである。」2019/10/30
梟をめぐる読書
13
『ロリータ』のナボコフ教授による文学講義の草稿であり作家論であり作品論であり小説の文体論であり翻訳論であり『アンナ・カレーニナ』の詳細な脚注であり…の、読みどころ満載な文学論。アンナ・カレーニナ夫人は「アンナ・カレーニナ」ではない、「アンナ・カレーニン」なのだ(ナボコフに言わせれば)。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の解説が6ページ足らずで終わる一方で『アンナ・カレーニナ』は200ページ近くあるなど偏重ここに極まれり、といった構成だが、それだけにトルストイの章はひとつの作品論として圧巻である。2014/10/25
うた
12
チェーホフの短編の書き方というのは一見簡単なようで、他の作家が違う国で同じ話をしようとすると上手く機能しない独特のものだと思う。書く対象と方法がぴたりと一致した珍しい例。日本では中期の太宰が似ているけれど、方向性が違う。トルストイの理想と才能の相反は、司馬さんの才能と書きたいことの関係によく似ている。もっと小説に徹していれば、より面白いものを書けたのにという口惜しさがあるというか。2016/02/17