内容説明
進化論の第一人者にして科学エッセイストであるグールドが科学の名のもとに「人間」を測ることを徹底的に検証しつつ告発した歴史的名著。下巻はその迫真の結論とともに知能が人種・民族によって決定されているとする『ベル・カーブ』への批判などのエッセイを収録。あらゆる差別と偏見とたたかうために読み継がれるべき書。
目次
第1章 IQの遺伝決定論―アメリカの発明(承前)(R.M.ヤーキーズと陸軍知能テスト―IQ時代の到来;心理学の急成長 ほか)
第6章 バートの本当の誤り―因子分析および知能の具象化(シリル・バートの事例;相関、原因および因子分析 ほか)
第7章 否定しがたい結論(実証科学として誤りを暴露すること;誤りを暴露することによる学習 ほか)
『ベル・カーブ』批判(『ベル・カーブ』;不誠実な内容 ほか)
三世紀間に見られた人種に関する考えと人種差別主義(古くから見られた思考と悪臭についての謬論;人種の幾何学 ほか)
著者等紹介
グールド,スティーヴン・J.[グールド,スティーヴンJ.][Gould,Stephen Jay]
1941年ニューヨーク生まれ。古生物学者、進化生物学者、科学史家。それらをベースにした科学エッセイでも知られる。2002年死去
鈴木善次[スズキゼンジ]
1933年横浜生まれ
森脇靖子[モリワキヤスコ]
1943年東京生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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塩崎ツトム
6
すべての問題を、個々人や集団の生得的劣等性に依ることができれば、社会で優位な地位を占めている人々にしてみれば、これほど楽なことはないだろう。人はどんどん、楽な思考に陥り、そんな自分たちの怠惰な本性をなんとか正当化しようとする。だけどそれでいいわけがない。2018/10/30
in medio tutissimus ibis.
5
差別を憎むあまり差別主義者を差別する陥穽に陥ることのないよう、著者は差別を理論立て推し進めた学者たちの取り扱いも疎かにしない。実際、彼らの多くは人品卑しからず(!)善意の人でさえある。それ故問題は根深い。言葉の一人歩きから、あるいは階層の固定のために、一元的に計測しうる不変にして実在なる知性を生み出したのはおそらくプラトンが始めではなく、『ベルカーブ』で最後ではない。それは常に驚くべき正確さで再発明されうるし、人間の宿痾であると銘記すべきものである。しかし乍ら、統計学等の知識によってそれは対応可能でもある2018/04/02
ドラマチックガス
4
本屋で何の気なしに手に取り目次をみたら「『ベル・カーブ』批判」という項があったので購入。「知能」と「IQ」の定義に関する問題、分析手法に関する問題、著者の誠実さに関する問題など、あらゆる角度から完膚無きまでに批判しつくす。以前何かで、ベル・カーブの著者マーレーが、あれだけのボリュームの本のうち、人種に関するごく一部が切り取られ、すべてが否定されていると文句を言っているのを読んだけど、そのレベルの問題じゃないことがわかる。だれか『ベル・カーブ』訳してくれないかな。鵜呑みにする人が出てくるからやっぱり無理か。2018/04/14
鴨長石
2
上巻は人間の先入観の恐ろしさを見せつけられ、暗澹たる気分になる。現在では人権派と位置づけられているような人でも、当時常識となっていた偏見からは逃れられないのだ。これは過去の話ではなく、現在でも当然と思われていることが全くの偏見ということはいくらでもあるのだろう。下巻は主にIQについて。グールドによるとg因子という考え方自体がナンセンスと言っているが、「g因子」で検索すると今日でも心理学の領域では当然の概念として語られているようだ。IQテストは普通に存在しているし、もう少しこの分野について学びたい。2021/02/16
海星梨
2
エッセイが収録されているぶん、上巻の方が密度が濃い。とはいえなんといえばいいのか、一気に読んで内容に対して自分の思考を突き詰められていない。 中学の頃、地理の時間に五つに分割される世界地図と、そしてそれを当たり前と認識している自分に僅かの疑問をもって、さらにその疑問に首をかしげて、それっきり忘れていた、というのを思い出した。 ユニークな文調も面白く楽しめた。2018/10/15