内容説明
『夜の果てへの旅』の爆発的な成功で一躍有名になった作者が四年後の一九三六年に発表した本書は、その斬新さのあまり非難と攻撃によって迎えられた。今日では二十世紀の最も重要な作家の一人として評価されるセリーヌは、自伝的な少年時代を描いた本書で、さらなる文体破壊を極め良俗を侵犯しつつ、弱者を蹂躙する世界の悪に満ちた意志を糾弾する。
著者等紹介
セリーヌ,ルイ‐フェルディナン[セリーヌ,ルイフェルディナン][C´eline,Louis‐Ferdinand]
1894‐1961年。フランスの作家。三八歳のとき出版した『夜の果てへの旅』が大反響を呼び、ゴンクール賞候補となった。常識を無視した大胆な文体破壊と狂憤に満ちた良俗侵犯は、第二次大戦中の彼の反ユダヤ主義への非難と逮捕によって一時葬られたが、亡命三部作を経て死後に再評価が高まった
高坂和彦[コウサカカズヒコ]
1932、東京生まれ。東京外大、東京都立大大学院修了。仏文専攻
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感想・レビュー
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かんやん
25
自伝的長編。パリの無料診療所で働く医師が少年時代を回想する。ガラス天井のある〈小路〉で小売業を商う母、保険会社で働く父、祖母の死、パリ万博、初めての自動車、学校生活、性の目覚め、丁稚奉公、イギリス留学、センテンスが短く、やたら「……」と「!」を多用し、罵倒と呪詛の言葉でページが埋め尽くされる。下の話が中心で、高尚なことなど一行も出てこない。「呪われた作家」などと言われ、目を覆いたくなるような反ユダヤのパンフレットを書いた作家であるけれど、読んでいて爆笑してしまう。白眉は童貞喪失と船酔いのシーンかな。2018/08/19
白義
21
夜の果ての旅と比べても救いのなさ不愉快さ、粘着質が濃い、まさになしくずし、なるがままただ生きるだけで破滅を極めていく腐りきった青春が全頁を埋め尽くしていく。童貞喪失シーンは、これほど恐ろしい性描写があるのかと思うほど。底辺のほうに底辺のほうに繰り返される執拗な文体破壊によって、セリーヌは家族喧嘩や地域の抑圧、逆強姦を地球滅亡並みのおぞましいものに仕立てあげた。だが、この滅亡にクライマックスも手もなく、ただ苦悶に満ちた憤りをもってどこまでも続いていくのである。最も恐ろしい毒書の一つだと思う2012/07/31
フリウリ
14
自分のせいもあれば他人のせいもあり、やることなすことうまくいかず、どツボにはまりゆくフェルディナン。その親父も生活に疲れ果て、ユダヤ人とフリーメイソンへの反感を募らせて生きている姿は、あたかも現代の典型的なおじさん像のようです。二十世紀末に読んだとき(たぶん途中で挫折した)は、「ひどい世の中のお話…」と思ったものの、もはや現実とどっこいどっこい? ラブレーばりの雲古ばなしは、おもしろいけれども。72023/11/23
みみみんみみすてぃ
11
★★★★★★★★ マストな本。「夜の果て」よりも、さらに激しく、罵詈雑言で、さらにスピード感がある。訳者解説によると、フェルディナン・セリーヌ自身は何もここまで凄惨な生活は送っていなかっただろうと書いてあった。だとすれば、物凄い誇張だ。徹底的な表現、短文の積み重ね、もうこれは芸術としかいいようがない。至高の芸術作品だ。2016/05/03
希い
10
『夜の果てへの旅』と比して、本作はより奔放であけすけな文体を用いて語られる。前者では淫猥、あるいは汚穢の描写に汚らしい言葉は殆どみられなかったが、本作では比喩もなしに日常の下品極まる言語が処狭しと頁上に染みをつける。内容は作者自身を投影した、不幸というか悲惨というかとにかく屈折した性格の人物の過去の物語なのだが、その物語はおよそ信じられぬ程の陰惨な苦痛に溢れている。人に騙され中傷され、根からどうしようもない愚物と誤解された彼は、絶望の深淵から世界に呪詛を吐きかけるが、それは自ら愛と光を闇に変えるばかりだ。2013/02/20