出版社内容情報
【目次】
内容説明
戦争の真に凄烈な部分は、華々しい面によりも、人知れぬ、隠れたところに数限りなく潜み、それがついに誰にも知れずに歴史の塵の下に埋もれてしまう。その、戦争というものの本質を前に、一種卒然たる感情にうたれぬわけにはいかない。―海軍報道班員として南方の戦地を目の当たりにし、戦争の実態を鏤骨の文体で捉えた、圧巻の十六篇。
著者等紹介
久生十蘭[ヒサオジュウラン]
1902年、北海道函館生まれ。作家。函館新聞社に入社後、上京、岸田国士に師事。渡仏し、演劇論を学ぶ。帰国後、『悲劇喜劇』の編集に従事、演出も手がける。『新青年』などで言語実験を駆使した推理小説、伝奇小説、珠玉の短編群を発表。1957年死去。主な作品に、「鈴木主水」(直木賞)、「母子像」(国際短編小説コンクール1位)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Kotaro Nagai
6
十蘭の太平洋戦争を題材にした短編集。昭和17年~20年の16編を収録。十蘭は昭和18年~19年海軍報道員として南方戦線に派遣されている。軍部が報道員として作家に期待するのはもちろん戦争遂行のための戦意高揚である。当然軍部の注文に迎合した記述もあるが、中編規模の「要務飛行」(昭和19年~20年)と「第〇特務隊」(昭和19年)を読むと、そこにはヒロイズムも高揚感もない。あるのは部隊に漂う無謀な戦争継続の虚しさが感じられる。昭和20年3月~7月のショートショートの「雪」「月」「花」の3編は諦観の美しさがある。2025/07/23