出版社内容情報
【目次】
内容説明
戦争の真に凄烈な部分は、華々しい面によりも、人知れぬ、隠れたところに数限りなく潜み、それがついに誰にも知れずに歴史の塵の下に埋もれてしまう。その、戦争というものの本質を前に、一種卒然たる感情にうたれぬわけにはいかない。―海軍報道班員として南方の戦地を目の当たりにし、戦争の実態を鏤骨の文体で捉えた、圧巻の十六篇。
著者等紹介
久生十蘭[ヒサオジュウラン]
1902年、北海道函館生まれ。作家。函館新聞社に入社後、上京、岸田国士に師事。渡仏し、演劇論を学ぶ。帰国後、『悲劇喜劇』の編集に従事、演出も手がける。『新青年』などで言語実験を駆使した推理小説、伝奇小説、珠玉の短編群を発表。1957年死去。主な作品に、「鈴木主水」(直木賞)、「母子像」(国際短編小説コンクール1位)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
アドソ
10
久々の十蘭。帯には「戦争終結80年祈念出版」とある。本棚を掘り返してみると『内地へよろしく』が「戦後70年記念出版」であった。共通の元ネタがあるのであろう、と思われる作品もいくつかある。『従軍日記』を読み返してみるのもいいかもしれないが、そんなことよりも、九死一生だったはずの従軍記者体験の中からこんなに胸を打つ小説が紡ぎだせることが驚きだ。戦争を美化するでもなく、宣揚するでもなく、かといって悲惨さを露わにするでもない。戦地のありさまが等倍で伝わってくるような気がするから不思議である。2025/09/05
Kotaro Nagai
8
十蘭の太平洋戦争を題材にした短編集。昭和17年~20年の16編を収録。十蘭は昭和18年~19年海軍報道員として南方戦線に派遣されている。軍部が報道員として作家に期待するのはもちろん戦争遂行のための戦意高揚である。当然軍部の注文に迎合した記述もあるが、中編規模の「要務飛行」(昭和19年~20年)と「第〇特務隊」(昭和19年)を読むと、そこにはヒロイズムも高揚感もない。あるのは部隊に漂う無謀な戦争継続の虚しさが感じられる。昭和20年3月~7月のショートショートの「雪」「月」「花」の3編は諦観の美しさがある。2025/07/23
北之庄
2
初めて目にする作者とタイトル、ちょい読みに惹かれ手にしたものの、なかなか掴みどころのない作品。ルポかと思えばさにあらず、フィクションの小説ともちょっと違う読後感。南方戦線の主に海軍陸戦隊将兵の苦労談ばかりだが、暗さや悲惨さはあまり無い。また敵機襲来→機銃掃射のエピソードは度々登場するが、戦死者の描写はあまり無い。珊瑚礁やジャングル基地での食糧確保と自活風景ばかりで、銃後の戦意高揚を図る従軍記者の役割を、果たしたのだろうか笑2025/09/20