内容説明
「どのエッセイも結局は文学のない世界では生きられない、ということを告白しています。実際には味わえない体験、自分とは異なる誰か、この世にはいない死者、そういうものたちへの想像力が、現実の私の救いとなってくれているのです」温かな眼で日常を掬い取り、物語の向こう側を描く、珠玉のエッセイ集。
目次
1 遠慮深いうたた寝(集会、胆石、告白;地雷だらけの世界で ほか)
2 手芸と始球式(手芸と始球式;指と果物 ほか)
3 物語の向こう側(干刈さんの指;二次会へ ほか)
4 読書と本と(官能とユーモア 田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』;恋をなくした時に読みたい本 ほか)
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、06年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、13年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、20年『小箱』で野間文芸賞、21年菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こばまり
42
何かを頑張った後のご褒美本として入手したが、まだ何も頑張っていないのにうっかり読んでしまった。一編一編がじんわり沁みる。「小さなナイト」なぞ、もしも現場に居合わせたなら滂沱の涙よ。随筆も小説も氏の作品には、心の柔らかい部分を優しく押される思いがする。2025/04/19
エドワード
37
先日、角田光代さんの歳とった~の嘆き節を読んだ後、「小川洋子さん!貴女もか」である。人の名前がでてこない。ものを失くす。子供の頃を思い出す。同い歳だものね。でも、ジョギングを欠かさない彼女はエライと思うよ。走りながら頭の中で、フランク永井やキャンディーズの曲がぐるぐる流れる、にニヤリ。相変わらず野球がお好き。父上と甲子園でタイガースを観戦する幻にはホロリとくる。雑誌の取材で「何か野望はありますか」と問われ、ええっ!野望?その言葉の重さに驚きつつ「甲子園で始球式をすることです」と答える彼女に拍手喝采。2025/04/01
阿部義彦
32
河出文庫の今月の新刊です。平積みになってました。小川洋子さんの10年振りの文庫エッセイの帯が巻かれてます。小川さんは土曜か日曜の午前中にラジオで本を紹介する番組をやっていて、仕事で運転しながら良く聞いてました。今回プロフィールを見て初めて気づきましたが、私と一歳しか違わないのですね。と言う事は失礼ながらかなりのお年と言うことか。名久井直子さんデザインの素敵な本です。一つ一つは短いけれど、どれも趣向が凝らされていて読んでいて飽きないエッセイでした。次は彼女の『小箱』を読んでみようかな?2025/02/15
komorebi20
29
小川洋子さんのエッセイ集。作者の本を何冊か読んでいますが、私には、理解し難い部分がありました。本好きな小川さんの想像力(妄想)は、豊かすぎて現実離れしています。作家として常に小説の題材を探している様子が垣間見えました。2025/05/25
ユメ
20
ひさしぶりに読んだ小川洋子さんの文章に、くらくらと陶酔した。あとがきに「どれも平凡な日常生活での出来事ばかりです」とあるが、確かに日々を綴ったエッセイであるのに、ふとした瞬間に彼方と此方を隔てるヴェールがめくられているような、小川さんにしかない不思議な持ち味がある。文学、創作に対する真摯な眼差しには感銘を受けた。故人から贈られたバッハのCDの話が印象に残っている。自分の死後の世界を思うと、私は時折途方に暮れもするのだけれど、バッハは変わらず流れるであろうという事実は確かに慰めになってくれる。2025/05/18