内容説明
薫によって宇治邸に囲われた浮舟だったが、薫と偽って近寄ってきた匂宮に契りを交わされてしまう。浮舟は匂宮の情熱に心惹かれるものの、二人の関係が薫に知られ、苦悩の末、入水を決意する…。浮舟の恋と性愛、そしてその行く末。傑作「宇治十帖」より「浮舟」から「夢浮橋」までを収録する、完結巻。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の〓』で中央公論文芸賞、11年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、14年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞、21年『源氏物語』で読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゴンゾウ@新潮部
77
源氏物語最終巻。最後に登場した浮舟。匂君と薫のふたりから言い寄られ苦悩する。どちらかを決められずに自ら入水するが。生き延び過去を断ち出家をするが薫に発見された浮舟。一度は薫の使者で実の弟を追い返すところで完。行く末は読者に委ねるられた。2025/06/29
あきぽん
47
源氏物語はおとぎ話ではなく、まごうことなく現実的な小説であることを改めて実感した読書体験だった。恋愛小説といわれるけど、そこにあるのはイケメンと美女が結ばれてめでたしめでたし、からかけ離れた世界。男と女の心はかくもすれ違い、女は生きにくく、性欲は恐ろしい。それでも一度くらいは好きな人と結ばれたいな…2025/04/14
もえ
31
「浮舟」から「夢浮橋」まで。匂宮は薫の女と知りながら、雪の日に浮舟を連れて舟で対岸に行き耽溺の2日間を過ごす。『宇治十帖』で一番好きな場面なのだが、祖父の光君が頭中将の昔の女と知りながら夕顔を廃屋に連れて行ったのと重なる。匂宮が浮舟に男女の絵を描いて見せるのも、まさに絵の上手かった光君の血筋であることを示している。最初の男である薫と恋愛気質の匂宮の間で揺れ動く浮舟は、入水を決意して…。長い物語のあっけない幕切れに呆然とする。角田光代さんのあとがきにもあるように、悩める浮舟こそが紫式部の分身だったのかも。2025/05/25
mocha
29
浮舟~夢浮橋。浮舟を繞る匂宮と薫の攻防は、男同士の友情や浮舟の気持ちには全くお構いなしで、出し抜いた者勝ちだ。周囲のなすがままだった浮舟が初めて自ら選んだのは身投げだったがそれも失敗、横川の僧都に発見され遂に出家してしまう。その後も各所から熱く口説かれるが…。物語は唐突に筆を置かれ、置いてけぼり感に呆然とした。「人形」だった浮舟が頑なに否を貫き「人」になった、それは勿論だが、全体として限りなく昼メロだった。みんな自分勝手な俗物で、展開が早く、ハラハラドキドキもある。平安の人々もさぞ夢中で読んだことだろう。2025/03/31
buuupuuu
26
薫にしても匂宮にしても、結局のところ、自分の側の都合だけで浮船と関係していた。また、母親にしても尼君にしても、自身の上昇志向を投影していたり、亡くなった娘の代わりだと思っていたりで、どれだけ浮船と心を通わせられていたのか疑問だ。浮船本人も、流されるがまま、はっきりせずに生きてきて、やっと強く自己主張できたのが、出家することだった。他人との縁がなければ人は生きていけないのだから、出家が最終解決になるとも思えないのだが、他人と交わろうとすれば様々な執着に巻き込まれることになる。かなり暗い世界観だと思う。2024/12/03