内容説明
源平合戦と平家の恩讐を背景に、朝廷からの讒言によって兄・頼朝の不興を買った、源義経主従の受難を壮大に描く大傑作。平知盛、維盛、武蔵坊弁慶、静御前の活躍と、いがみの権太ら市井の庶民たちの篤き忠義が絡まりあう。初音の鼓と狐の謎も哀しき名作浄瑠璃が、「声」の物語としてたおやかな日本語で甦る。
著者等紹介
いしいしんじ[イシイシンジ]
1966年大阪生まれ。小説家。03年『麦ふみクーツェ』で坪田譲治文学賞、12年『ある一日』で織田作之助賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヨーイチ
31
人形浄瑠璃・文楽の名作。すぐさま歌舞伎に移植され、歌舞伎でも名作と扱われている。本書はその現代語訳。我々の世代のイメージと異なって、ダイナミックと言うか自由闊達な分かりやすい新訳で、とてもと言うかメチャクチャ面白かった。最近「物語」に関心があって、語るって行為は「読む・黙読」よりも遥か昔から存在していたわけで、「語る為の本・床本」が本書の元本で、「語る」行為・大夫の芸が立ち昇って来る様な箇所が何箇所もあった。「メチャクチャ面白い」の一部分がコレだったわけで、自分としては大事な再認識だった。続く2024/08/04
Shoji
31
私、吉野に住んでおり、郷土史に興味を持っています。そのような経緯で、義経千本桜も文楽劇場で何度か鑑賞しています。劇場で買い求める公演パンフレット、地元の自治体史、故地に建つ説明板など、断片的に義経千本桜を読んではいましたが、こうして活字で全篇読み通すのは初めて。もちろん、地元が舞台、文楽を鑑賞済という贔屓目はあるにしても、すんなりと頭に入ってきて楽しめました。劇場ではケレン味が売りですが、意外にも冒険活劇、弁慶なんて関西人キャラ丸出しだし。竹田出雲、やるじゃん!、想定外に面白く読めました。2024/06/20
❁Lei❁
15
人形浄瑠璃の演目のひとつで、それに基づく装丁が粋な一冊。源平合戦で没した平家の武士たちが実は生きており(!)、義経らの行く先々において因縁の戦いが勃発するという冒険活劇です。コテコテな関西弁の弁慶や、子どもらしくたどたどしい口調の忠信狐などが魅力的で、登場人物たちが今まさに生きているような読み心地でした。また、武士たちの篤い忠誠心に加え、彼らを手助けする市井の人々の義理人情にも注目です。いがみの権田の秘密が明かされたときの驚きたるや、涙もほろり。大阪出身のいしいさんならではの、 語りが瑞々しい新訳です。2024/06/08
鷹ぼん
10
文楽劇場の「文楽かんげき日誌」でよくお見受けする人なので、どんな『義経千本桜』を読ませてくれるか期待しながら読む。「大序」から「四の切」まで微に入り細に入り、太夫の語りに乗せ、実際に人形が動いているかのように、筆を運んでいる。さすが文楽愛好家の作者、「語り芸」であるという本筋を損なわずに、見事に「いしい版『義経千本桜』」として書き上げている。狐忠信の「狐ことば」も、カタカナや長音を巧みに使って工夫されている。こういうのは実際に浄瑠璃を聴かないと思いつかない工夫。改めてナマの舞台を観ることの大切さを感じた。2024/09/05
ゆぽ
8
三大義太夫狂言のひとつ、歌舞伎では観ていますが、読むのは初めて。弁慶たちがかなりの関西弁なことに少し驚きました。全編とても読みやすくて、通して読むことで歌舞伎の解像度も上がった気がします。三段目の「すし屋」と四段目の「川連法眼館」はやはりドラマティックでいいなあ。2025/05/20