内容説明
「予て御所望の雲母張り硝子製立棺、貴方と等身のもの、それも二台、昨夕入荷いたしました」。謎めいた女主人が古鏡の彼方へといざなう幻想譚「かすみあみ」、未来を失った天才ピアニストをめぐる男たちの縺れ合いと女たちの復讐劇「連弾」など五篇を収録。華麗なる悪夢の扉が今開く。全集未収録、伝説の短篇集、初の文庫化。
著者等紹介
塚本邦雄[ツカモトクニオ]
1920年、滋賀県生まれ。歌人、評論家、小説家。歌誌「玲瓏」主宰。51年第1歌集『水葬物語』でデビュー。三島由紀夫の支持を受ける。以後、岡井隆、寺山修司らと前衛短歌運動を展開し、成功させた。『日本人靈歌』で現代歌人協会賞、『詩歌變』で詩歌文学館賞、『不變律』で迢空賞、『〓金律』で斎藤茂吉短歌文学賞、『魔王』で現代短歌大賞を受賞。2005年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
55
実生活に疲れた時、この毒っ気が恋しくなる。ホモソーシャルを支持しながらも支配的なうてなの厭らしさに対し、ホモソーシャルに隷属している(父から贈られた、二羽の雄孔雀の留袖を纏う)ようでいてその微かな亀裂に漬け込み、二重の復讐を為す未絵さんに莞爾と笑む。同時にそれに己の浅墓さや他者への思慮の浅さを棚に揚げて慄き、軽蔑する男三人衆の冷笑せざるを得ない。また、食材の活かし方を分からずに駄目にする寸前からささっと二、三品拵える手腕に拍手喝采。同時に「この人ら、何食べて生きてきたんだ・・・?」と首を傾げざるを得ない。2024/06/28
Porco
19
今年も塚本邦雄作品をこうして河出文庫から出されたが、何度読んでもこの華美に装飾された文字の濁流に呑まれて翻弄されるばかり。今日のポピュラーカルチャーに沿ってゴシック的作品と表してもよいが、12世紀ヨーロッパから産地直送してきたかのような悪辣さ溢れる男女の物語を読むと、単にそうとしか表すのが申し訳なくなるほど極まった漆黒の美文が脳髄に突き刺さる。文庫による復刊で今の読者が知れるという状況だからこそ、過去に在りつつ最新でもある、ディレッタントという言葉が似合うこの作家の作品が読めるという幸運は得難いものだ。2024/07/30
Valkyrie
14
中短編5作で構成される「連弾」圧倒されました。登場人物の全てに鬼が棲んでいる、そういう世界。男色、近親相姦、寝取られの連続と下衆な感じになりそうなのがそうならないのは鬼なんだからだと思う。全体を通して花をメインとした植物がアクセントになり色合いの表現もいい感じに古くて作品に気品を与えている。「奪」「連弾」の愛憎入り乱れた大物もいいけど、女性の妖しさと香りの迷宮に引き摺り込まれる幻想的な「かすみあみ」が好き。2024/06/28
練りようかん
10
短篇集。目次の仕掛けが面白い。反転、反響、ここから既に始まっているのだなとワクワクした。隠された秘密と死の謎がぼうっと立ちあらわれる「奪」は、半盲の画家の意識に集中させる描写の力と三つの家の背景に緻密な構成を感じ、この短篇で話は終わるのか?と思う引きと離しが妙。次の表題作はやっぱりと全然違うが同時にきて、翻弄させてくれるなと楽しくなった。口もウデも立つ花嫁に胸騒ぎを覚える姑。三角関係がいくつもあり、三角なのに転がっていくイメージで展開に没入。端正な文体で描かれる修羅場は迫力があり、最後が鮮烈。良かった。2024/10/28
rinakko
10
ルビの多い文章を追うだけでまず快感。聊か毒気が効き過ぎなのでは(特に女性に対して)、お気立てに難がおありで綺羅な人たちしか出てこないのでは…などと思いつつ、引き込まれ魅入られて眩暈する読み心地だった。醜さも美しさも過剰に絢爛で残酷で、もうそれで酔ってしまう。とりわけ好きだったのは表題作(未絵さんがだんだん好きにw)と「青海波」と「かすみあみ」(これでもかと立ちこめる香り、そのなかの妖しい少女たち)。2024/06/15