内容説明
「天に雲雀人間海にあそぶ日ぞ」「梅干と皺くらべせんはつ時雨」…誰にでもわかる言葉で、ユーモアあふれる俳風を開拓した一茶。生涯で詠んだ約二万句から百句を精選し、俳人・長谷川櫂が「新しい一茶」と題し批評を加え、「子ども向け」「ひねくれ者」という評価を鮮やかに反転させる。波乱に満ちた人生に沿いながら見えてくる新たなる一茶像。
目次
山寺や雪の底なる鐘の声
時鳥我身ばかりに降雨か
しづかさや湖水の底の雲のねみ
塔ばかり見へて東寺は夏木立
君が世や唐人も来て年ごもり
乞食も護摩酢酌むらん今日の春
天に雲雀人間海にあそぶ日ぞ
朧々ふめば水也まよひ道
寐ころんで蝶泊らせる外湯哉
小便の身ぶるひ笑へきりぎりす
つくづくと鴫我を見る夕べ哉
義仲寺へいそぎ候はつしぐれ
天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ
藪越や御書の声も秋来ぬと
かつしかや早乙女がちの渉し舟
足元へいつ来りしよ蝸牛
父ありて明ぼの見たし青田原
夕桜家ある人はとくかへる
我星はどこに旅寝や天の川
よりかゝる度に冷つく柱哉〔ほか〕
著者等紹介
長谷川櫂[ハセガワカイ]
1954年熊本県生まれ。俳人。著書に『俳句の宇宙』(サントリー学芸賞)、句集『虚空』(読売文学賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ロア
10
小林一茶から近代大衆俳句は始まった!(*´ω`*)それ以前の松尾芭蕉や与謝蕪村は、古典の教養を下敷きにした古典主義俳句でした(それでも最晩年の芭蕉は、脱古典に挑んだひとだったのですね)。日本語だからこそ表現できる俳句というかたち。そして、日本語を母国語として形成された耳と脳を持つ私たちは、この短い「詩」で表現される言葉の響きから、日常のおかしみに共感したり、宇宙の広がりまでも感じ取ることができる。これってすごいことだ。2024/04/13
オールド・ボリシェビク
3
これは名著だよ。小林一茶を、古典とは無縁ゆえの「俗な俳人」とせずに、近代的な大衆俳人ととらえなおした。時代のフレームのとらえなおしが極めて斬新である。近代俳句は一茶に始まる。そして、子規へと橋が架けられていく。明治維新は日本の近代化の始まりではなく、単なる西洋化の始まりに過ぎなかった。近代化はすでに、18世紀末の田沼時代から始まっていたという立論も可能なのかもしれない。それはそれとして、一茶、只者ではない。信州の田舎から出て、学問もないのに、いや、学問がなかったからこそその境地に達することができたのか。2024/11/11
めえめえ
3
一茶は芭蕉や蕪村と違い古典とは無縁で大衆的。裏読みせずに味わえるのがいいですね。でも彼は天才だと思います。晩年の度重なる不幸な出来事はお気の毒としか言いようが無い。「一茶」で卒論を書かれる方にはこの本は大変参考になると思います。2024/07/01