内容説明
さらば。さらば、みじかき夏の光よ―。同じ夢を見続けた二人の男、ハムレット外伝、猫嫌いの男と空色の猫、石榴聖母の下に集う七人の虚々実々、少年の日の花鎮めの一夜、主と美しい奴僕達が迎えた最期。眷恋と別離が交錯する白昼夢へ。言葉の魔術師の神髄、目眩く傑作瞬篇集。
著者等紹介
塚本邦雄[ツカモトクニオ]
1920年、滋賀県生まれ。歌人、評論家、小説家。歌誌「玲瓏」主宰。51年第1歌集『水葬物語』でデビュー。三島由紀夫の支持を受ける。以後、岡井隆、寺山修司らと前衛短歌運動を展開し、成功させた。『日本人靈歌』で現代歌人協会賞、『詩歌變』で詩歌文学館賞、『不變律』で迢空賞、『黄金律』で斎藤茂吉短歌文学賞、『魔王』で現代短歌大賞を受賞。評論に『定型幻視論』『定家百首』、小説に『連彈』『藤原定家 火宅玲瓏』などがある。2005年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
60
瞬編小説と著者が名付けた数頁の話を収録した一冊。どれもこれも文章があまりにも華麗で絢爛。夕映えのような美しい一瞬を凍り付かせそのまま永遠に保存しているような感覚を受ける。基本取り扱われているのは男女関係に恋愛といった身近で生臭い題材なのだが、それが著者の筆にかかるとどこか上天を思わせる神話じみた趣さえ感じられるように思える。世の中ストーリーで読ませる小説は多々あるが、この文章を味わうためだけに読みたい。そういう本は本当に希少であり、本書は紛れもなくその一冊であった。眺めていると目次だけでも美しいな。2024/09/03
Porco
7
瞬篇小説というものを提唱した塚本邦雄が残した『夏至遺文』と『トレドの葵』をニコイチにしたのが本文庫である。河出文庫で先立って復刊してくれた『十二神将変』『菊帝悲歌』は既に読んだが濁流の様に押し寄せてくる難解な表現に疲れてしまい十全に楽しむことは難しかった。しかし、本文庫の特に『夏至遺文』では塚本邦雄の表現の巧みさを掌編という一つ一つの話が短い体裁をとっているおかげでかなり味わえた。復刊されている作品の中では1番読みやすく塚本邦雄作品の入門としては最も敷居が低い本と言える。 (1/2)2023/07/09
rinakko
6
まず絢爛、そして読むことの快感。とりわけルビ好きには堪らない。〈夏至遺文〉のお気に入りは「禽」(いきなり怖い!)や「葡萄鎮魂歌」、「僧帽筋」で、〈トレドの葵〉では「七星天道虫」と「凶器開花」、「虹彩和音」。特に「凶器開花」は、こういうの幾らでも読みたい…と思ったし、「虹彩和音」の一篇一篇に添えられた短歌はとても味わい深い(短歌落ち、みたいな)。皆川博子さんの「我が師 塚本邦雄」でとどめを刺された。2023/07/14
りっとう ゆき
1
掌編、短編集。植物・薬・色、人名…言葉そのもの、世界、薄気味悪ささえも美しく、一つ一つの物語がまるで絵画のよう。そして膨大な知。心の奥を刺激しながら秘密を少しずつ明かしてゆくストーリーにどんどんひきずりこまれてしまう。2025/01/05
sugsyu
1
瞬篇小説を中心に収録。短歌の密度をノヴェラに適用した、ような…不倫、殺人、愛憎のこもごもを絢爛たる文飾で彩る。2024/07/26