内容説明
「彼の冷奴なるものは夏の食い物の大関である。奴豆腐を冷たい水に浸して、どんぶりに盛る。氷のぶっ掻きでも入れれば猶さら贅沢である。」江戸東京の懐かしい生活の風景、明治の少年時代の記憶、関東大震災の生々しい記録…。「半七捕物帳」シリーズの著者である岡本綺堂の貴重な記録を集めた随筆傑作選。
目次
江戸東京の思い出(島原の夢;白魚物語;思い出草 ほか)
震災の記(火に追われて;十番雑記;風呂を買うまで ほか)
怪談奇譚(魚妖;小坂部伝説;四谷怪談異説 ほか)
著者等紹介
岡本綺堂[オカモトキドウ]
1872年生れ。本名敬二。旧御家人を父として東京に生まれる。東京府中学校卒業後、東京日日新聞に入社。記者のかたわら戯曲を書き、『修繕寺物語』『番町皿屋敷』などの名作を発表。捕物帳の嚆矢“半七捕物帳”シリーズで人気を博した。1939年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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tosca
30
明治5年1872年生まれの岡本綺堂、感覚が今の我々とあまり変わらないので面白い。江戸時代の記憶がまだ残っている時代の日常生活を気軽に教えてもらっているようだ。東京に生まれ育った綺堂は、明治初期から日清戦争までを旧東京、それ以降を新東京と区別し政治経済から日常生活の風俗習慣まで様々な事が変わってしまったと考える。「東京のトンボが減った」とか「とんびを見かけなくなった」とか、まるで私達が今と昭和を比較しているような事を書いている。麹町に狐や蛙がいた100年前…日比谷公園の再開発なんか止めてくれ!と叫びたくなる2023/05/29
みやび
25
これはとても興味深い内容だった。まだ東京に江戸の香りが残っていた時代の人々の日常生活や空気感がリアルに感じられる。明治5年に東京で生まれ育った岡本綺堂が、目まぐるしく変わっていく街の様子や風習に寂寥を感じ、当時を懐かしく思い出しては名残惜しんでいる姿は、今の自分達と変わらない感覚で面白い。いつの時代の人々も、失われてゆくものに対して抱く寂しさは同じなんだと思うと少し安心できる。幼い頃に綺堂が見た風景も当たり前にあった風習や風俗も、今はもうどこにもない。2023/06/29
TSUBASA
18
『半七捕物帳』などで有名な岡本綺堂の随筆集。明治初期に生まれた綺堂は新しくなっていく東京にほのかに残る江戸の香りに名残惜しさを感じているようだった。とはいえ明治時代の文化が活写されていて興味深い。明治中期に年賀状が登場したとのことで、年賀状が増えたことで年始回りの人々が減ったのに寂寞を感じてたとはね。また、関東大震災についても克明にその被害を語っている。後半は中国由来の物語について。芝居の演目として有名だけど出自は中国だろうという話について元ネタ解説してる。耳なじみがあるせいか自来也の話が面白かった。2023/05/17
hitsuji023
7
読んでいて、まだ共感するところがあるということは明治大正も遠いようで近いのかもしれない。懐かしさを感じる思い出の数々。東京にも鳶が飛んでいたことがあったのかと思ったり、昔はいた赤とんぼが一匹もいないことに味気なさを感じるなど環境の変化に思うことは時代も場所も関係ない。そして、関東大震災の記録は煙が迫ってくる様子が目に見えるようで貴重。また半七捕物帳を読んでいるかのような「西郷星」「ゆず湯」は実話なのか創作なのかわからないが面白くもあり、悲しさもあった。綺堂ファンにとって中身が盛り沢山な一冊。2024/02/23
たつや
6
初岡本綺堂。江戸時代が肌で感じれて、面白かったです。落語の鋭い分析、圓朝について、読めて良かった。長唄など、江戸の衣食住が岡本綺堂目線で書かれている。2024/12/05