出版社内容情報
生と死の狭間で揺れ動く人々を描いたミステリアスな傑作15篇。『文豪ミステリ傑作選 太宰治集』を改題復刊。
内容説明
人はどうして生きなければならないのか?「生きること」そのものに解き難い「謎」を抱いていた太宰が、生の苦悩をミステリアスに描いた知られざる傑作短篇集。自身の心中未遂など様々なモチーフを通して描きだされる、魂を揺さぶる生と死の風景。生きることの本質を哀切なユーモアを込めて描いた愛と死と破滅の物語15篇。
著者等紹介
太宰治[ダザイオサム]
1909年、青森県金木村(現・五所川原市金木町)生まれ。本名・津島修治。東大仏文科中退。在学中、左翼活動に従事。田部シメ子と心中をはかり、ひとり助かる。36年、第一創作集『晩年』を刊行。39年、井伏鱒二の紹介で石原美知子と結婚。『富嶽百景』『走れメロス』『女生徒』など多くの佳作を発表。戦後、『斜陽』などで流行作家となり、『人間失格』『桜桃』などを執筆するも、48年に山崎富栄と玉川上水で入水自殺(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
136
太宰治は自己破滅型の作家とされる。自殺未遂を繰り返し、酒や睡眠薬の中毒になり、妻子がありながら複数の女と関係するなど生きるのが下手な男なのは間違いない。社会や法に抑圧される現代人は、多かれ少なかれ生きづらさを抱える。そのため太宰の描く「生きてしまった」人間像に惹かれ、この世に生まれてきた不幸に苦しむ姿は自分ではないかと感じてしまう。どの作品でも太宰にとって唯一最大の謎である「生まれてきたこと」の解明に苦闘する人びとが描かれるが、その謎は永遠に不明のままだ。簡単にわかってしまえば苦しむ必要などないのだから。2024/04/28
Vakira
50
ミステリーとは神秘とか怪奇の意味もあるし小説の場合は推理小説の事だ。推理と言えば謎解き。この本、表紙には太宰治×ミステリーとあります。ん?どこがミステリー?でも、ちょっと視点を変えれば「生まれてすいません」この言葉が投げかける太宰治の深い謎を見つけることが出来るかも。太宰治さんは代表作の「人間失格」を読んで大ファンに。この短編の中に葉蔵とヨシ子の関係的なスピンオフ人間失格がありました。1938年に書かれた「姥捨」。「雌について」はカフェの女給、ツネ子の事でしょう。簡単に死の話を聞くと死は近くにありません。2023/01/12
くさてる
30
「ミステリ」とあるけれど、もちろんいわゆる推理小説ではなく、人間心理の綾をミステリアスに描いた短篇をセレクトしたもの。苦しみと皮肉なユーモア、リーダビリティの高さはもうさすがとしか言いようがありません。「燈篭」は再読するたびに「読むんじゃなかった」と思うけど、ここに描かれた親子の情愛は美しい。たまらなく。美しいというなら「葉桜と魔笛」もまた美しい一作。こんなに美しい家族を描けて、同時に「日の出前」のような家族ならではの地獄も書けてしまう太宰はやっぱ太宰。やっぱりもう、小説が、うまい。2024/04/10
ゴールドまであと951日
23
最近のミステリー、ほとんど読んでないので、この太宰治のミステリー小説、時代ががっているとはいえ、結構、読むには値する。新聞に連載されている小説でさえ、若い人の書いたものは、それなりに読めるものの、意欲や関心が続かない。それ以前に、語彙が腑に落ちない、もう時代、年代が違う。せめて太宰治のミステリーを読んで悦に入っておこう。 感想文、読んですぐ出ないと、もう忘れている、もちろん読み返せば、読んだことをはっきり思い出すのだが、まだまだ他にたくさんの本を読みたい。読みたい本がたくさんある。社会に出てから断絶した。2023/06/11
Inzaghico (Etsuko Oshita)
15
太宰は意外とユーモリストだったんだな、とわかる作品もあった。「愛と美について」だ。五人兄妹の長女が惚れっぽい体質で、すぐに捨てられてしまうのだ。「同じ課に勤務している若い官吏に無風になり、そうして、やはり捨てられたときには、そのときだけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲンで精細にしらべられ、稀に見る頑強の肺臓であるといって医者にほめられた」。電車の中で思わず吹き出した。2022/07/29