出版社内容情報
組織の犠牲となってしまう武士の悲哀を描いた士道小説傑作集。カンヌ映画祭に出品された表題作など代表作を収録。解説=白石一文。
内容説明
その武士は、なぜ死ななければならなかったのか―。組織の犠牲となり、一切かえりみられなかった末端の武士とその家族の悲哀そして苦悩…。武家社会が抱える壮絶な残酷さを描いた名作たちが令和の時代に甦る。映画『切腹』及び『一命』の原作である表題作をはじめ「拝領妻始末」「綾尾内記覚書」など傑作揃いのオリジナル短篇集!
著者等紹介
滝口康彦[タキグチヤスヒコ]
1924年長崎県佐世保市生れ。57年「オール讀物」掲載の「高柳父子」でデビュー。同作は直木賞候補にもなる。58年「異聞浪人記」でサンデー毎日大衆文芸賞、59年「綾尾内記覚書」でオール新人杯(のちのオール讀物新人賞)を受賞。生涯のほとんどを佐賀県多久市で過ごし、85年には多久市文化連盟芸術文化功労賞を受賞。2004年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kawa
33
寛永年間、大名改易で困窮した浪人が大名屋敷の玄関先で切腹を所望して金銭をせしめる所業が流行ったという。愛息の重病に窮した若侍・千々岩求女は、井伊屋敷門前で切腹を所望したが井伊侍の悪意で悲壮死した。その顛末は?…驚くべき物語が展開される。戦国の世を命をかけて生き抜いた侍たちの太平の世での悲哀を描く名作。「切腹」というタイトルで映画化、こちらは鑑賞済みだった。(ラジオNIKKEI「ページのない読書会」で、短篇集「異聞浪人記」から表題作のみ読了ということで)2021/09/09
姉勤
22
悲劇の連鎖とも言える、やりきれなさ。「異聞浪人記」大名の改易、取り潰しにより多くの浪人が発生した。仕官に絶望した浪人が大家の軒を借りて切腹を願い出で、その心意気を買われ採用された奇貨を真似る所業が横行し、実際、切腹を「させた」事例も発生した。そしてまた、切腹を所望する老いた浪人が一人。武士であるが故のカルマ、縁や義理に時に命をかけるのは武士だけに限らず。だからと言って、命長らえれば最高の幸福と言えるほど、卑しく生きる事を選ぶのも潔しとできないならば。同調圧力の一部となる安心を選ぶか、破滅への快感を選ぶか。2021/09/13
Satoshi
7
名作映画「切腹」の原作小説を納めた短編集。著者の滝口康彦は司馬遼太郎と並ぶ歴史作家らしい。「異聞浪人記」で描かれる不条理。武家社会というお家が無くなれば困窮し、お家があってもその面子を守れなければ切腹という価値観を侍魂というのかよくわからない。「拝領妻始末」もお家の体裁を整えることのみを主眼とした社会がいかに女性の尊厳を傷つけたか。いちの末路が淡々と描かれているところに底しえぬ悲哀を感じる。本作も映画化している。三船敏郎主演で加藤剛、仲代達矢が周りを固めており、かなりの豪華キャスト。2024/09/07
山田
6
江戸時代の武家社会の見栄やしきたりを守るために、士官や下級武士、そしてその妻達に押しつけられる不条理を綴った短編集。 殿様や御家老様といった上の方々に振り回され、敵討ちやら切腹やらと切ない終わり方がほとんど。 ある侍の妻のつぶやきが心に沁みた。 「殿様は何にもご存じない。侍の悲しみも、その妻の悲しみも、ほんとうのことはなんにも…」 そう、雲の上の人達は「ほんとうのこと」にまつわる下々の心なんて気づきもしないのだろう。切ないなぁ。2020/11/08
デルタアイ
3
封建制度における武士 この作家は数々の武士の小説名著を生み出しながらもだいぶ否定的にみてる気がした 貧困や主命、いろいろなしがらみにがんじがらめになり命を賭けて行動する武士 それは決して華々しいものではないんだと言われてる気がした 余談ながら映画化された切腹は仲代達矢を始め鬼気迫る演技のオンパレード松竹の金字塔 ☆9.02025/01/10
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