出版社内容情報
男が、女が、突然、姿を消した。けれど、本当にいなくなってしまったのは……。生きることの痛みと輝きを見つめる窪美澄の短篇集。
内容説明
よく晴れた冬の日、わたしは父を施設へ入居させることを決めた。厳格な祖母が仕切る家で、母の出奔後もひっそりと生きたかつての父。そして今、自分の人生を選び取ることで夫とすれ違いを深めていくわたし。生きるということは、二人の男を棄てることなのだろうか…。手探りで生きる人々の人生に寄り添い描いた作品集。文庫版にあたり、短篇「夜と粥」を増補。
著者等紹介
窪美澄[クボミスミ]
1965年、東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で女による女のためのR‐18文学賞大賞を受賞してデビュー。受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞、『トリニティ』で織田作之助賞を受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
547
テーマは「生と性」。一見つながりはないようでいて、その実いい感じにつながっている、という印象の短編集だった。ふたつの短編に出てくるシーン「ごめんなさい、好きな人ができました」が心に刺さる。わたしも19のときの当時の恋人に言われたことがあったな。生きていく上で、出会いや別れは避けて通れない節目であり、その究極である老いや死についても考えさせられた一冊。2021/05/01
じいじ
108
たまたま本屋で、好きな窪さんの新刊かな? と手に取った。「性」のテーマで書いた過去~現在までの作品から選りすぐった短篇集である。表裏一体の「生と死」も窺がえる。私は表題作が好きだ。読了後、もう一度読み返した。妻42歳の夫婦のお話。或る朝、中2の娘から初潮を告げられる。「おめでとう!」と喜びながら、そんな娘にちょっぴり嫉妬する母親。その理由は、幸せな毎日を実感するものの、いまひとつ満たされないものが…。窪さんは、そんな女ごころの描写が巧い。たった9頁の中に、家族 & 夫婦円満が垣間見えます。2021/04/09
ベイマックス
103
9つの短編集。後書きでご本人が語られているように『性』が赤裸々に。それぞれ、終わり方に、キュンとしたり、ホッとしたり、えっとしたり。 2021/06/12
hit4papa
75
初期の頃の作品を集めた短編集です。デビュー作「ふがいない僕は空を見た」が、性描写において攻めた感の強い作品でしたが、そのあたりの著者の思いが本作品のあとがきで知れて興味深くはあります。著者の家族関係に関するノンフィクション的二作品を含め、家族や恋愛に関してネガティブなものが多く、どんよりとしています。性描写も「ふが僕」からの出版社側の期待感を引きずっているような…。まだ本作品集は、習作という位置づけでしょうか。この中では、高校生の恋愛模様を描いた「銀紙色のアンタレス」が、甘酸っぱさを感じてよろしいかと。2021/11/20
優希
55
読んでいて何故か心地良かったです。性愛は多めですが、エロスではなく、文学に昇華してしまう美しさがありました。手探りで日々を歩む人への道標になりそうな気がします。人生に寄りかかるように描かれた世界は優しく読者を包み込むのでしょうね。2022/05/22