出版社内容情報
預言者が鉄塔に投げた音符は「国民保護サイレン」を奏で始める…ふつうがなくなった震災後の世界で、不穏に輝く七つの“生”を描く。
内容説明
ごめんわたしふつうがわからないの…恋人の鯖江君と別れたわたしは、預言者のおばさんと出会う。彼女が空に投げた音符が奏でるのは「未来の曲」。しかし、その暗く濁ったメロディは、戦争の始まりを告げる「国民保護サイレン」だった…。震災以後の、ふつうがなくなってしまった世界で、あのころより見えるものがある―不穏に揺らぎながら、美しく輝く七つの“生”に寄り添う傑作短篇集。
著者等紹介
絲山秋子[イトヤマアキコ]
1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞、2016年『薄情』で谷崎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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masa
54
競馬を当てるための法則を組み立てているときに気がついた。答えはいつだって法則の外にばかりある。つまり、現実とは新たな例外の積み重ねなのだ。成功体験はむしろ失敗しか生まないし、人は何度でも似たような間違いを繰り返す。だから「フツウ」なんて今だけのもので、過去になった途端に「イジョウ」になってしまうことは珍しくない。歩きタバコも飲酒運転も昔からしてませんよという顔でみんなしらを切り通している。地震に慌てず、熱中症に気をつけて水分を取り、マスクを常時着用し、イジョウが生み出す新しいフツウに僕らは踊り続けるのだ。2022/07/16
おっしー
44
全7編の短編集。いずれの話も3.11の震災を絡めた話。ただ震災の悲惨さを訴えるような内容でなく、どこか一歩引いたような俯瞰的な視点が、この世界で生きていくことのリアルを感じさせられる。今のこの世界に生きているという事実にドキッとするような。「ニイタカヤマノボレ」が個人的ベストかな。他の人のことを理解できないことって「普通」ではないのか、みんなの中に自分は含まれないのか、グサグサと刺さる話。誇張や飾りのない鉄塔が好きなのはそれが1番楽だからなんだと思う。事実だけを受け取ることは単純で疲れないもんね。2022/11/12
阿部義彦
35
河出文庫で読めるなんて、矢張り最近の河出は私好みです。と言うのはですねー、記憶で書いてるので間違ってたらごめんなさい。私絲山秋子さんのツイッターフォローしてますが、そこで絲山さんが「忘れられたワルツ」は新潮社から単行本として出たのですが、版元では文庫にする予定は無いのです。自分としては気に入っている作品なのでどうにかならないのかしら云々とツイートしてた様な記憶があります。兎に角読めて感激です。そして読んで内容はまた良いでは無いですか。確かに難しくて置いてきぼりにされた方も多いかも知れません。私は好きです。2018/01/17
みどり
25
この人の文、好きだな。大学図書館で見かけてはいたものの手に取ることがなかった作家さん。わたしの中では津村記久子さんや多和田葉子さんみたいな立ち位置。何が起こるわけではないけれどするすると読めていつのまにかお腹の底に落ちている。「増田喜十郎と神」がよかったな。コンプレックスがない増田と、囲碁に似た卵のようにつるんとした神さまの話。神さまが通るときは大勢の人の靴音がするのだという。神さまがどんな顔をしているかなんて考えたことながなかった。こういう発想がとても好きだな。わたしの中の神さまは人の顔をしていない。2018/11/14
Yuki Ban
20
読後感は、病気にかかってあらかた回復したけど後遺症が残ってしまった、でもその後遺症がなぜか愛おしい、って感じです。2019/09/15