出版社内容情報
北国に住むわたしは、ある日、アメリカの小さな街へ砂漠を見に向かったのだが……新芥川賞作家の飛躍作!
山下 澄人[ヤマシタ スミト]
1966年生まれ。神戸市出身。富良野塾二期生。劇団FICTIONを主宰。作・演出・出演を兼ねる。著作に『緑のさる』、『ギッちょん』がある。
内容説明
「砂漠へ行きたいと考えたのはテレビで砂漠の様子を見たからだ」―北国に住むわたしが飛行機に乗って到着した街は、アメリカの古くからのカジノの街。レンタカーを借りて向かった砂漠で、わたしは、子どもの頃のわたしに、既に死んだはずの父と母に、そして、砂漠行きを誘えずにいた地元のバーで働く女に出会う…。小説の自由を解き放つ表題作に、単行本未収録を含む短篇三作を併録。
著者等紹介
山下澄人[ヤマシタスミト]
1966年、兵庫県生まれ。富良野塾2期生。96年より劇団FICTIONを主宰、作・演出・出演を兼ねる。2012年『緑のさる』で野間文芸新人賞、17年『しんせかい』で芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
70
☆5.0 山下澄人の住む“砂漠”は夢や妄想みたいな戯れ言で出来ている。 この“砂漠”は至って手強い。一度惚れたら蟻地獄だ。2021/01/17
海恵 ふきる
14
ピースの又吉先生がおすすめしていたので購入した。大多数の小説は時間軸に沿ってある空間が描写されることで進むが、本作は時間や空間が混沌としている。ぼくら人間は、常に周囲の状況について考えているわけでは無い。なにかを思い出して感傷にふけることもある。要するにそれは、現実と記憶と想像が入り混じっている状態だ。そう考えるとこの一見不思議な散文を全て理解するのは無理だとしても(また理解する必要も無いのだ。感じられればいいのだから)、この散文において最も感ぜられなければならないことを感得することはできる気がするのだ。2020/03/14
深夜
14
まるで覚えたての言葉をとにかく羅列しているようなある種の稚拙さ。それでいて計算されつくした文体。どの短編も、いずれも語り手が不安定で、それがこの小説の不思議な魅力となっている。保坂和志の言うように、まさに感覚で読む文章なのだと思う。2017/08/11
ぽち
13
わたしが一番敬愛している音楽家の竹村延和さんの名盤のひとつに「こどもと魔法」という作品があるのだけど、竹村さんはそのころのインタビューでもそのあとのインタビューでもたびたび子供の感性に対しての尊敬というか憧憬を語っていて、子供の感性というのは純粋で美しくて、同時に、ではなく同義で、それは恐ろしいものであって、竹村さんの音楽で言えば牧歌的なメロディと不協和音、クラスターが共存している。牧歌的とか不協和音とか言えば説明がついたようであるけど、説明というのはそうする人が自分の理解の範疇に陥れる行為なだけで2017/06/26
ネムル
8
ネタ一発みたいな書きぶりだが、だんだんツボにはまってくる。瞬間瞬間の共時性のようなものが場として立ち上がってくるあたりは、予想外に愉快な読書だった。その空間が幻想味を帯びてくるのにはやや疑問も覚えるも、その自足した空間とアットランダムな時間の描かれ方は、青春小説としてひとつのリアルさを形成しているかもしれない。結構好き。2021/06/30