内容説明
身体機能が衰えてゆくイーイー。崩壊へ突き進むビルディング。碧い星は本当にあるのか。ボディを離れたスピリットに「帰還」の場所はあるか。二人は果たして脱出できるのか。壮大なスケールで描く巨篇・待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mayu
49
崩壊に向かうテレヴィジョン・シティ。変わらずにあると思っていた世界が少しずつ失われていき、最後まで共にあると信じていた存在も曖昧になっていく。忘れていることさえ思い出せないまま、そんな相手にもどかしい思いを抱えたまま、それでも、確かに築き上げられてきたはずの友情が儚くも美しく感じられる。いつか旅立つことを願い憧れ続けた惑星。そこでの眩しく見えていた夏ですら一時の夢にしか過ぎなかったことを知り、切なく思う。消えゆくものだけがもつ煌めきと特別さに惹かれ、悲しくても清らかな余韻に惹かれ、読み直したくなる作品。2024/08/09
コットン
31
長野まゆみさん風SF小説。比較的ゆったりとした物語の流れの中で映像や音声、書く行為や身体といったことを掘り下げ、例えばフラッシュバックのように現れた光景を直ぐに忘れたり、正直に手紙を書くことが出来なくなったイーイーがそれでも書くことで自己を知ろうとしたりと哲学的感覚が伝わった。昔の映画:『惑星ソラリス』を思い出しました。2013/01/11
柊渚
26
「本当に忘れてしまったんだな」痛みにたえるように眉を寄せた顔が、わずかに微笑む。はやく思い出して…。偽りだらけの世界で、見つけた真実を。ノイズが混じる波の音、懐かしい声が耳を掠めた気がした。どんな声だったか、もう覚えてないけれど。 寄せては返す波のように、目醒めると同時に失われてゆく夢のように、掌から零れ落ちていく玻璃の破片達。何一つ失いたくなくて、必死に掻き集めるけれど、気付けば掌は切り傷だらけ…そんな感覚。閉ざされた世界の中で生きる少年達の日常が、少しずつ歪み、壊れていく。2022/02/09
chacha子
20
よせては返す波の緩慢なリズムのように、情景描写は幻想的かつ曖昧模糊として、どこか捉えどころがない。抑制のきいた語り口は美しい色彩を喚起させるとともに、逃れ得ない崩壊の危うさをそのうちに内包させる。本を閉じたあとも、瞼の奥には降りしきる雪の残像、耳の底には遠い夏の潮騒が響く。2015/06/03
橘
19
難しくて、読み終わった今も全てを理解したとは言えませんが、面白かったです。どんどん閉じて崩壊していく世界観が好きでした。何度も読み込むと少しずつわかるのかな、と思います。また読みます。2015/02/20
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