内容説明
ブリューゲルと並ぶ北方ルネサンスの巨匠ボス。数々の謎に満ちた異端の“名画”を克明に解読して現れる驚異の世界像。
目次
序章 『快楽の園』の全体像(プラド美術館に入るまでの経過;作品の構成;解釈をめぐって)
第1章 外翼パネル(天地創造;ノアの日々のように)
第2章 左翼パネル(主なる神とアダムとイヴ;生命の木と知恵の木;生命の泉とフクロウ ほか)
第3章 中央パネル(前景;中景;背景)
第4章 右翼パネル(地獄の特徴;木男;僧院 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
333
プラド美術(マドリッド)に所蔵されているボッシュの『悦楽の園』の全体から細部にいたるまでを美術史家の神原正明氏が徹底的に検証したもの。全体はトリプティーク祭壇画に外翼(いわば外蓋)からなる。この絵のどこをとっても、およそこれに似たものを即座には思い付かないし(著者は個々に関連を指摘しているし、右翼パネルの地獄図などはメムリンクら、北方ルネサンスの画家にも見られるが)、極めて個性的というか、まさに奇想天外な絵である。私が初めて見たのは遅くて、大学1年生の時。誰であれ初めて見れば、細部まで眼を凝らすこと必定。2022/12/24
em
22
ただ漫然と眺めれば、ひしめく生物に目を奪われ思考停止に陥るこの絵。あちこちで男女三人のトリオが演じる三角関係、自由意志の象徴としてのY字、AとΩ……一般に想像される聖書との関連やシンボリズムに加え、数秘術や錬金術からの読み解きもあるのが面白い。これは宗教画なのか、それとも祭壇画を隠れ蓑にしたパロディなのか、肉欲礼賛なのかその虚しさを説いているのか。この問いについて筆者は、ボスの表現が「両極を同時に許容し得る」ものだという点を重要視する。それは、芸術に強烈な磁力を持たせる普遍的な要素なのかもしれない。2019/04/09
viola
5
卒論で『快楽の園』を入れようと思ってるので読んでみました。まず、カラーでかなり細かくカットされた写真があるのが最高。しかも見やすい、分かりやすい。 内容もものすっごく興味深く、シンボルに興味がある方だったらかなり楽しめるのでは。 謎解きをしているようで大変楽しめる1冊です。2010/07/10
こきよ
4
この絵のもつ複雑で混沌とした世界観や異形の生物達をボスはどのように生み出したのだろう。組み込まれた寓意やその解釈を考察するのが、この絵を鑑賞する上での大きな楽しみだろう。実際にプラド美術館で実物を観たいと思った。本書を読み進めるには読者に多少の知識(キリスト教や中世ヨーロッパ世界の)を要求するが、細部に渡り丁寧に分析されており読み物として面白く何度も再読したくなる。
wasabi
3
面白い。作者や作品の背景などは控えめに、「快楽の園」の画面上に描かれたシンボルのみを対象にして絵を掘り下げていく。たった四枚の絵に目眩がするような情報量の多さ。中高生の時にエヴァの深読みなんかにハマった人にはたまらないんじゃないかなあ。真実を突き止めることではなく真実にいたる「過程」(とディティール)が楽しいんだよねえ、って作者の考えには共感。2013/03/10