内容説明
3.11後、混乱をきわめた放射線の健康影響問題…東大教授がアカデミズムの暗部を衝く―こうして安全論・楽観論は増殖した。科学者・専門家とは、いったいどういう人たちで、どれほど確かなことを言ってきたのか。
目次
序章 不信を招いたのは科学者・専門家(事故後早期の放射線健康影響情報;放射線健康影響情報の混乱―『国会事故調報告書』はどう捉えているか? ほか)
第1章 放射線健康影響をめぐる科学者の信頼喪失(放射線の健康影響の専門家は信頼できるか?;日本学術会議の対応 ほか)
第2章 放射線の安全性を証明しようとする科学(二〇mSv基準をめぐる混乱と楽観論の専門家;原発推進と低線量被ばく安全論の一体性 ほか)
第3章 「不安をなくす」ことこそ専門家の使命か?(リスク・コミュニケーションという論題;「リスク認識が劣った日本人」という言説 ほか)
終章 科学者が原発推進路線に組み込まれていく歴史(被災住民の思いから遠い科学者たち;放射線健康影響の専門家を取り巻く環境の推移 ほか)
著者等紹介
島薗進[シマゾノススム]
1948年生まれ。専門は、宗教学、死生学、応用倫理学。現在、東京大学大学院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
25
1980年代後半から原発推進に都合のいい低線量放射線安全の研究。90年代以降放射線への不安こそ被害とする言説に(2頁)。原発の被ばくと医療の被ばくの問題が密接に関わる(39頁)。私は胸部X線は被ばくだから、極力避けてきている。今のような放射能だだ漏れであれば、余計に累計に神経を尖らすのもやむなしであろう。市民の求めるものからの乖離(54頁~)。福島の親たちは子どもはここに暮らしていてだいじょうぶだろうかと悩むように なる。なぜ20mSvなのか。 2014/10/10
まつゆう
3
本来宗教学を専門としている著者が「原子力、放射線安全神話」の形成過程、ルーツについて批判したもの。官学一体となった利益構造が顕になるとともに、その利益に基づいた見解を正当化するために問題を「伝え方」に矮小化する詐術めいたやり方には呆然とするばかりだが、同時に、こうした利益構造が人為的に構成されている以上は、そこが変われば、反、脱原発も不可能ではないはず。本書でも触れられている高木仁三郎のように、民間や第三者機関の力で風向きを変えられるかもしれない、と期待。2013/11/16
mustache
2
「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません」などと、山下俊一らが原発事故後に発言していた。これはトンデモ学者の常識はずれ発言ではなく、日本で「保健物理」という分野の研究者にとって共通了解になっていたらしい。彼らは、国際放射線防護委員会ICRPの見解(放射線の影響には閾値がなく、微量でも健康に悪影響がある)を否定するために、電力会社の潤沢な資金で運営される電力中央研究所を拠点としてこのような了解を広めていたのだ。原発神話だけでなく、放射線神話まで用意していた原子力ムラの実態を明らかにする貴重な一冊。2014/10/11
coolflat
2
被曝を低く見積もり、「安全論」を吹聴してきた科学者達を実名を挙げて喝破していく本だ。原発ムラの住人たちによって作り上げてきた安全論の歴史が非常に興味深く参考になった。特に、電中研が中心になり、国際的に認められているLNTモデル(しきい値なし)を否定するために、ホルミシス効果を唱えるのだが、そこへ業界と学者達が組み込まれていく。その過程は読まねばならないだろう。福島事故による放射能被曝の軽視はそこに繋がっているのだから。彼らは、原発業界を利したいためだけに、被曝防護を軽視、いや否定しているのだ。2013/06/28