内容説明
18世紀ロシア、19世紀アラスカ、現代フィンランド…今はなき巨大海棲哺乳類ステラーカイギュウを巡る、3世紀にわたる息を呑む冒険譚。葛藤を抱えその復活に情熱を燃やす人々が、いま歴史を変える―。ヘルシンギン・サノマット文学賞受賞。28言語で刊行のベストセラー!!
著者等紹介
トゥルペイネン,イーダ[トゥルペイネン,イーダ] [Turpeinen,Iida]
ヘルシンキ在住の文学研究者。2014年、J.H.エルッコ短編小説コンクールで才能ある書き手のひとりに選ばれる。初の長編小説となる本作は、失われた世界と生きた文学を融合させた比類なき作品として称賛され、すぐれた新人作家のデビュー作に贈られるヘルシンギン・サノマット文学賞を受賞した
古市真由美[フルイチマユミ]
フィンランド文学翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
小太郎
40
絶滅したステラカイギュウをモチーフにした物語。舞台は18世紀ロシア、19世紀アラスカ、そして現代のフィンランド。かなり広範囲にわたり綿密な資料を当たっているのは読んでいてわかります。そのリアリティは読み手を放しません。もしノンフィクションで書いたとしても相当な秀作は間違いないと思います。ただこれをフィクション→物語として(それも冒険譚として)書いたことにより、より読み手に強く訴える作品に仕上がっていると思いました。各賞を受賞しているのも頷けます。本の装丁やデザインも素晴らしい。★42025/09/16
かもめ通信
20
18世紀の史実に基づいた海洋冒険譚からはじまって、現代まで、史実を基にしたフィクション。絶滅した生き物とその生き物をめぐるあれこれを語りあげることによって、読者の心の中に幻の海獣を蘇らせると同時に、人間の愚行の結果をこれでもかと突きつけ、過ちを繰り返す愚かさを告発する、そんな物語でもある。2025/09/15
geshi
19
絶滅したステラーカイギュウを軸に描かれる人々の物語を通じて、人間の営みが生き生きと伝わる。18世紀の船乗りたちがステラーカイギュウの肉に歯を立てる描写のなんと美味しそうなことかと思いつつ、その後の絶滅の後ろめたさが心に影を落とす。19世紀のアラスカ総統の妻と妹が女性的役割に閉じ込められている姿は行き場のない苦しさ。20世紀の女性画家がそれを一部でも破ってくれる爽快感。滅びたものへの惜別はそこまで強くなく、静かに諭すように今の我々へ「同じ轍の踏むのか」と向けられている。2025/07/20
Nao Funasoko
17
ドードー然り、ニホンオオカミ然り、そしてこのステラーカイギュウ然り。近代においての絶滅種の物語はフィクション、ノンフィクション問わず、つい手にとってしまいたくなる。本書は19世紀から現在に至る3世紀にわたる骨太な物語。失われた生物を通じて、その時々の登場人物の生き様が鮮明に浮き上がってくる。読み進む途中で星野之宣「罪の島」(『滅びし獣たちの海』収録)を読み返してしまった。 それにしても全くもって偶然のことながら、昨日人生初めてのモルックを体験。なんだかフィンランドづいてるな。(笑)2025/07/21
ぽけっとももんが
15
「絶滅」という概念がなかった時代、人はステラーカイギュウを、オオウミガラスを、リョコウバトを獲り尽くした。いなくなっちゃうなんて知らなかったんだもんなぁ。そりゃ極北の地で、大きくて美味しい、しかも逃げない動物がいれば捕まえるよ。ただ我々はもう知っている。絶滅しそうな種もわかっている。「絶滅できない動物たち」のジレンマもあわせて考えなくてはいけない。小説の体裁をとっているけれども会話の鉤括弧もなく、詩的に綴られるステラーカイギュウの運命。2025/07/26