出版社内容情報
自殺した友人の遺稿を整理するために屋根裏部屋にこもった主人公がみいだすカオスと深淵。ベルンハルト中期の傑作。
内容説明
静かな狂気が渦巻き、すべてが崩壊をあらわにする目眩く言葉の迷宮。推敲し、推敲し、推敲する。書くことによって故郷を乗り越えようとした男のおそるべき悲喜劇。
著者等紹介
飯島雄太郎[イイジマユウタロウ]
1987年生まれ。京都大学文学研究科博士課程単位取得退学。出版社勤務を経て、現在京都大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイトKATE
36
『凍』と『消去』で、私を独特な読書体験へと導いてくれたトーマス・ベルンハルト先生。本作『推敲』も、ベルンハルト先生の個性が全開している。語り手である”私”が、自殺した学者ロイトハマー(哲学者ウィトゲンシュタインがモデル)の残した原稿を推敲していく話だが、改行が一回しかない長い文章には、延々と故郷や家族(特に母親)への罵倒と呪詛が語られる。また、太字で書かれている言葉から繰り返し語られる文章が続くなど、癖が強いのでベルンハルト先生の小説は好みが分かれるだろう。私はベルンハルト文学がやはり好きである。2022/02/09
松本直哉
30
「物体を安定的に支えるには、一直線上にない少なくとも三つの支点が必要とされる」というエピグラフは、同時にこの物語の三人、ロイトハマーとヘラーと語り手を意味しているかもしれない。しかしその均衡は、一人が姿を消したために崩れつつあり、これは崩れて滅びゆくものへの挽歌ともいえる。改行なしで延々とうねるように続く文、反復を嫌う西洋の文体論にあえて逆らうかのような執拗な語の反復をもつ独自の文体が奇妙な酩酊感をもたらす。円錐の形の家に住みたいとは思わないけれど、それが凡庸さへの反抗の象徴のようにも思える。2022/01/18
29square
12
森の奥深く聳える円錐形の建物というイメージが強烈だ。いくつかの重心点から支えられていても、一旦ずれると倒壊するというのが主人公の自殺に至るメタファとなっているのか。 罵詈雑言は控えめだが、ひたすら陰鬱なベルンハルト恒例の語り芸。時間の停滞加減はロブグリエを凌ぎ、語りの崩れっぷりは筒井康隆を越える。疲れてる時には読まないのが身のためだ。2021/11/24
ハルト
9
読了:◎ 「推敲は破壊であり、破棄することだ」とあるように、ひたすらに自己を破壊しながら進む、狂気に満ちたメタフィクション。円錐の建物を姉のために建てるという、存在証明。ぎっしり詰まった文字は、けれど意外に読みやすく、めくるめく眩暈を与えてくる。父、母、兄弟への呪詛。故郷への怨念。重たく沈みそうになる作品だった。主人公ロイトハマーのモデルはヴィトゲンシュタインらしいというのには、なるほどと思った。2021/10/13
かんちゃん
7
明確な話の筋があるわけではないのに癖になってしまうベルンハルト。例によって閉鎖的な空間でのモノローグが主。なんだったら今回はほぼ100%屋根裏部屋が舞台となっており、閉鎖度は過去最大かもしれない。その屋根裏は、ヘラーの屋根裏であると同時にロイトハマーの屋根裏であり、そこで「私」がロイトハマーの原稿を読み、その思考過程を辿る。同時に、ロイトハマーの語りも二重化されていて(例えば、姉のために建てた円錐を語るために、ロイトハマーは母を語り、ヘラーの家を語る)、思考の中に潜行していく読書感覚。2022/06/19