出版社内容情報
人生に訪れた劇的な出会いを鮮やかに描く、現代韓国を代表するストーリーテラーによる珠玉の短編集。日本オリジナル編集。
内容説明
それでも私たちは生きて、ゆっくりと消滅していくだろう。母と子、妻と夫、恋人、同僚、同級生…人々は親切に、礼儀正しく傷つけあう。「私たちの“ここ”と“今日”を記録する作家」が贈る、希望も絶望も消費する時代の生活の鎮魂歌。
著者等紹介
チョンイヒョン[チョンイヒョン]
1972年、ソウル生まれ。2002年に作家デビュー、04年「他人の孤独」で李孝石文学賞、06年「三豊百貨店」で現代文学賞を受賞。同年、『朝鮮日報』に連載した長編『マイスウィートソウル』が熱狂的な人気を得てベストセラーとなりドラマ化される。卓越した観察眼と巧みなストーリーで「私たちの都市の記録者」の異名を取る。現代韓国を代表する作家のひとり
斎藤真理子[サイトウマリコ]
1960年、新潟市生まれ。翻訳家。訳書に、パク・ミンギュ『カステラ』(ヒョン・ジェフンとの共訳、クレイン、第一回日本翻訳大賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
86
最後に載る「三豊百貨店」を先に読む。2000年代韓国屈指の短編小説と言われるこの作品は、1995年実際に起きた崩壊への著者の実体験だ。「優しい暴力の時代」に7篇の短編小説。韓国の女流作家はいずれも実力揃い。どの短編も素晴らしい。しかしむしろ社会情勢が彼女らに筆を執らせているのではないか、社会の圧迫感が書くという行為をせざるを得ない程暴力的に迫っていることを読みながら感じた。そして著者はこれからも書き続ける。「今は親切な優しい表情で傷つけあう人々の時代であるらしい。そんな時代を生きていく」しかないのだから。2020/11/12
fwhd8325
80
冷静で鋭い視点を持った短篇集だと思います。私にとっては近くて遠い韓国ですが、一つ一つの短編に共有できるものを感じることができるのは読んでいて楽しいです。「三豊百貨店」は、この事件を全く記憶していなく、事件のことを少し調べました。この作品だけ伝わってくる空気が異なるように感じました。そして作家という職業の業のようなものを感じました。2021/10/10
星落秋風五丈原
67
「優しい」「暴力」とは、本来矛盾した言葉だ。暴力は優しくない。しかし確かに優しい暴力は存在する。「アンナ」ダンススクールで出会ったアンナとキョンは、数年後子供の母親と補助教師として再会する。そこには明らかな経済格差がる。キョンは美容クリニックの夫がいる裕福な主婦、アンナは未だ独身で、補助教師は正規職員ではない。何かあれば責められすぐに辞めさせられる。そして韓国の教育ママ熱は日本のそれより凄まじい。2020/10/02
ヘラジカ
53
今年初読みの韓国文学。まるで境遇の重ならない登場人物たちに何故ここまで共感性を抱いてしまうのだろう。国も社会も性別も違う人々の生が、ぴったりと肌に張り付くように馴染んだ。読む前は全く感触の掴めなかった「優しい暴力」という言葉が、今ならすんなりと理解し、現実の世界に感じることすらできる。しみじみととても良い作品ばかりで没頭して読んだ。「ずうっと、夏」「夜の大観覧車」「アンナ」がお気に入りだが、ボーナストラックの「三豊百貨店」は格別。今年読んだ短篇のなかではベスト10に入るかもしれない。2020/09/01
konoha
50
好きな作家、温又柔さんのおすすめ。作者の感性、時代を見つめる目が鋭い。定義できない人間関係、誰もが人生で経験する痛みを上手く切り取る。「ミス・チョと亀と僕」がかわいくて大好き。父の元恋人から亀の「岩」を譲り受ける僕。不器用な僕の生き方が切なく愛おしい。恋を予感するが淡々と生活する女性教師の「夜の大観覧車」、不動産で揉める夫婦の「引き出しの中の家」も味わい深い。国籍、性別、階級への向き合い方は私たちよりシビアで、どこか冷めている。あとがきの「握手すると手のひらが切られている」という表現がぴったり。2024/03/21