出版社内容情報
ホロコーストに消えた母、僕は沈黙することしかできなかった。ポーランドから南米に移住した息子の苦悩を描いた仏ベストセラー。
内容説明
ポーランドからブエノスアイレスに亡命したユダヤ人ビセンテ。家庭や友人に恵まれ、幸せな日々を送る彼に、第2次世界大戦の現実味はない。そこにワルシャワに残した母からの手紙が届く。手紙にはゲットーにとらわれた母の苦境と飢え、同胞たちの死が綴られていた。やがて報道でもユダヤ人虐殺を知ったビセンテは、母を残してきた後悔と自己嫌悪に苛まれ、沈黙の中に閉じこもっていくが、苦悩と悪夢がやむことはない。そして、母から最後となる手紙を受け取ったビセンテの選択とは―。実在の人物をモデルに、南米の地からヨーロッパの戦争を描いた異色作。
著者等紹介
アミゴレナ,サンティアゴ・H.[アミゴレナ,サンティアゴH.] [Amigorena,Santiago H.]
1962年ブエノスアイレス生まれ。73年、両親とともにウルグアイを経てパリに亡命。映画監督、シナリオライター、プロデューサー、作家。日本公開されたものでは『TOKYO EYES』(ジャン=ピエール・リモザン監督、武田真治・吉川ひなの主演、1998年公開)の脚本に参加
齋藤可津子[サイトウカツコ]
翻訳家。一橋大学大学院言語社会研究科博士課程中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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蘭奢待
52
主人公はワルシャワからブエノスアイレスに移住して、安定的な生活を送ってきたユダヤ人。疎ましく思っていた母親を残したまま、いつか呼び寄せようと考えていたが、ドイツがポーランドへ侵攻し、ユダヤ人に対する圧力が高まってくる。やがて理不尽な迫害と大量殺戮の噂が広がってくるにつれ、母親を残してきたことを後悔し、深く悩む。全編を通じて鬱々とした空気が漂う。つい明るい出口を期待して読み進めてしまう。エピローグでずしんと打たれ、さらに訳者後書きを読んで驚いたことを記しておこう。2020/11/07
つちのこ
30
ホロコースト、ショアー、ジェノサイド、フルバン…意味合いは微妙に違うが、どれもナチスがユダヤ人に果たした最終的解決の言葉である。アルゼンチンに亡命した主人公のビセンテが、遠く離れた祖国ポーランドのユダヤ人虐待を知るにつれ、精神的に追い詰められ、心が蝕まれていく様子は、直接的な被害はないとしても、これもまたホロコーストの犠牲者といえる。祖国に残した母親や家族の無事を思う気持ちを、逃げることができないゲットーや収容所に重ねて、苦悩し続ける主人公の閉塞感が、やるせなく、辛く、後味が悪かった。2022/11/30
のりまき
21
著者の祖父が主人公ビセンテのモデル。ビセンテの母が送った手紙は現存し、巻末に写真がある。びっしり書かれた文字は私には読めないけれど、切実な思いを感じる。なぜもっと早くに何かしなかったのかと罪悪感に苛まれながら、どんどん悪くなる状況になす術もなく病んで行くビセンテ。 でも、どうしようもなかったのだ。こんな恐ろしいことになるなんて、誰が想像できたろう。生き残った者をも苦しめ続ける戦争の酷さを思う。2025/01/20
uniemo
13
ブエノスアイレスに移住できたユダヤ人の主人公がポーランドに残りゲットーに閉じ込められた両親を思い苦悩する物語。アニカ・トールのステフィとネッリの物語を思い出しました。ステフィ~は少女の青春にも主題を置いているので本作よりも希望はあるのですが。自分は安全な所にいてどうしようもできない中、家族を思う気持ちの描写は胸をうちました。妻とも悩みを共有できず自分の中にゲットーを作り閉じこもってしまう主人公の姿が悲しかったです。2020/10/03
くれの
11
亡命ユダヤ人の自伝的小説はとても切ない戦争悲譚でした。華やかなる地でゲットーの内側にある現実から目を背け遺恨に苛み心を閉ざした彼の苦悩が痛いほど伝わってきます。姿を変え今もなおこの世界にあるショアを心に留めました。2020/10/15
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