出版社内容情報
砕かれた残骸が白く輝く。現代韓国最大の女性作家による最高傑作が遂に邦訳。崩壊の世紀を進む私たちの、残酷で偉大ないのちの物語。
ハン・ガン[ハンガン]
著・文・その他
斎藤 真理子[サイトウ マリコ]
翻訳
内容説明
しなないで、しなないでおねがい―その言葉がお守りとなり、彼女の体に宿り、そのおかげで私ではなく彼女がここへやってくることを、考える。自分の生にも死にもよく似ているこの都市へ。うぶぎ、ゆき、つき、こめ、はくさい、ほね…白い光と体温のある方へ―ワルシャワと朝鮮半島をむすぶ、いのちの物語。アジア唯一の国際ブッカー賞作家、新たな代表作。最注目の作家が描く破壊の記憶と、再生への祈り。
著者等紹介
ハンガン[ハンガン]
韓江。1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。1993年、季刊「文学と社会」に詩を発表し、翌年ソウル新聞新春文芸に短篇「赤い碇」が当選し作家デビューを果たす。2005年『菜食主義者』で李箱文学賞、同作で16年にマン・ブッカー賞国際賞を受賞
斎藤真理子[サイトウマリコ]
1960年、新潟市生まれ。明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。80年より韓国語を学び、91~92年、韓国の延世大学語学堂へ留学。15年、パク・ミンギュ『カステラ』(ヒョン・ジェフンとの共訳、2014年、クレイン)で第1回日本翻訳大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
けんとまん1007
233
白。この色には、いろんなイメージが広がる。静謐という言葉が浮かぶ文章で綴られている。命あ大きなテーマなのではと思う。白から始まり、白に終わるというようなことかと思う。とても沢山のものを包み込む、その結果としての白色。その奥行きは、とめどなく広がる。2020/03/23
旅するランナー
211
おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり、つき、など白いものたち。これらの言葉たちによってこすられた私の心臓から流れ出る何らかの文章。生まれて数時間で死んだ姉への鎮魂詩。書くことによって生かされる死者との繋がり。精神の浄化を感じる静謐な文章が読者の心臓を優しくさする。2025/04/14
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
198
あまりにも美しいものは見るものに恐怖をあたえると、そう言ったのは誰だったろう。遠い記憶。世界を埋める雪の白は、他者を許さない。研がれた氷柱は人を殺めることも容易だろう。あまりにも白で統一された部屋は精神を病むと、そう言ったのは。久しぶりに口にした混ざりもののない白いお米は、どんなに美味しかったのか。暗闇のなかの、一筋の光は。 しろく生まれ落ちた私たちは白く柔らかい衣に包まれ、息絶えてまたしろいものに包まれて空に溶けていく。残るのはまたしても白くかるい、はかない空虚な。水色の空に、一筋の飛行機雲。2020/01/17
mukimi
150
アジア女性初のノーベル賞受賞作。時空も国境も生死の境もふわりふわりと超えた重層的な世界の中に、白いもの達の記憶が点々と描かれている。それらは錆びた感覚を呼び覚まし、温かな命を持つ自分を遠くから眺めるような気になる。「読むというよりその中を歩く本」という解説で腑に落ちた。そして灰色の寒い街を俯いて歩くような、苦しい過去に押し潰されそうな、憂鬱や悔恨を笑い飛ばせない心の奥底から文学は生まれるのだと思い出した。殺人を描いた前作の後に自己を癒すために書かれた本作の、冬の朝のような冷たい透明感に触れてみて欲しい。2024/12/31
ちゃちゃ
140
この世に生を享けてから、彼女は静かに深く傷ついてきた。自分という存在の意味を問い続けて。けれど、異国で過ごした日々が白いカーテンを開ける決意をもたらし、自らの傷と対峙する。失われた命とその魂のために。「しなないでおねがい」彼女の心に谺する祈りの言葉。生まれてすぐに亡くなった姉に向けられた母の言葉は、彼女を苦しめ苛み不安と孤独の深淵を覗かせた。生と死の境に漂う危うさと寂しさを内包する「白(ヒン)」。何者にも損なわれない、尊厳に満ちた生命の「白」。その鮮烈な印象を、痛みとともに美しく刻んだ、鎮魂と再生の絶唱。2020/02/26