出版社内容情報
人間の無意識を見事にえぐり出す悪夢のような12の短篇集。世界20カ国以上で翻訳されている「ホラーのプリンセス」本邦初訳。
マリアーナ・エンリケス[エンリケス,M]
著・文・その他
安藤 哲行[アンドウ テツユキ]
翻訳
内容説明
家の前に母親と住む汚い子供、酒浸りの高校時代、幽霊屋敷、子供と小動物の殺し屋、通りで見つけた頭蓋骨、鎖で脚をつながれた子供、黒い水から生まれた奇形児たち、「燃える女たち」の反乱…。読み進めるうちに、底知れぬ恐怖に満ちた現実に囚われていく。ラテンアメリカ新世代の“ホラー・プリンセス”が作りだす濃密なゴシックワールド。
著者等紹介
エンリケス,マリアーナ[エンリケス,マリアーナ] [Enriquez,Mariana]
1973年アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。作家・ジャーナリスト。95年『降りるのは最悪』で作家デビュー。「パヒナ/12」紙の発行にも携わっている
安藤哲行[アンドウテツユキ]
1948年岐阜県生まれ。ラテンアメリカ文学・翻訳家。摂南大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
145
ここで起きる不気味で不可解な出来事にきちんとした顛末があるわけではない。だからこれが、現実の出来事なのか、語り手の狂った妄想に過ぎないのか、それすらわからない。ただ根底に間違いなくあるのは、不安定な政情がもたらした国土の荒廃と貧困、絶望しか見えない未来。押し込められて押さえ込まれた末に溢れ出す怒りと悪意が矛先を向けるのはいつも、女性や子ども、弱い立場のひとたち。そんな彼らが最終話で起こしたとんでもない行動。これが反乱なのか、復讐なのか。恐ろしすぎて悲しすぎる。2023/05/24
buchipanda3
120
アルゼンチンの作家による短篇集。読み始めたら止まらなかった。思わず駆け足で結末まで走り続けないとという追い込まれたような感覚。ホラー系統だが、非現実の恐怖というより、目の前の現実社会が既に異様な非現実になっていたことに気付かない感覚の狂いの怖さが印象深い。その感覚は今の時代では誰もが持ち合わせ、その歪みが特に子供や女性へ向けられ、火の中で失くした話のように価値観が振り切れる。汚い子の語り手は自らをいかれていると言うが、では家の言葉を聞けるのはどうか。どっちが狂った非現実か分からない混乱の余韻が纏わりつく。2023/04/30
夜間飛行
108
南米の治安の悪い街で、呪術と暴力の結びついた風土が女の子達に自分の身は自分で守るしかないという姿勢を取らせる。その一方、血を嗅ぎわけ麻薬や炎の中へ身を投じる者もいる。日常生活が誘拐や殺人に絶えず侵食されているこの土地では誰かが突然いなくなる事もある。或いは監禁されクスリでボロボロになった子供が現れたりもする。そうした情景が原初的な記憶とも未来への意志とも取れる辺り、バロウズとの接点があるように思った。ともあれここに差し出される血や吐き気の心象は、他者との残酷な関わりから政治意識が芽生えていく道筋だろうか。2019/04/06
藤月はな(灯れ松明の火)
100
アルゼンチン発のホラーが日本に上陸。どれも耳元で金属音を以て殴られるような厭さに包まれたものばかり。尚、アルゼンチンの情勢を知っている人ならより一層、その闇の黒さと絶望感を味わえるでしょう。「汚い子」の語り部がいつまでも出て行かないコンスティトゥシオンの成り立ちと現在の様子はデトロイトを思わせる風ですし、「オステリア」は『シャイニング』のように場の記憶かと思いきや、LGBTの人々が如何に生きにくい時代であったかを最後で知らしめる冷たさに背筋が凍る。「酔いしれた歳月」の堕ちぶりとそれによる惨劇もエグい。2019/01/03
HANA
72
アルゼンチン作家によるホラー短編集。基本女性の視点で語られており鬱々とした心理描写が続くが、それが上手く嵌った場合は作中恐るべき効果をもたらしている。基本家や家庭に纏わる話に良作が多く、本書中の白眉ともいうべき「アデーラの家」や現実か妄想か判別の付かないまま恐るべきラストを迎える「隣の中庭」、家庭の問題がそのまま異様に不穏なラストに直結する「パブリートは小さな釘を打った」等は忘れがたい印象を残す。表題作に顕著なように抑圧された心理は恐怖に直結するのかな。江戸時代の怪談に女性を主役とする物が多かったように。2019/01/31
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- 和書
- 有斐閣現代心理学辞典